慶應義塾大学と東京大学は,青色LEDによる青色光の照射とゲノム編集を組み合わせることでマウスの妊娠(着床)をピンポイントに調節することに成功した(ニュースリリース)。
体外受精などの生殖補助医療(ART)の進歩により不妊治療の成績は劇的に改善したが,着床障害を原因とする不妊には未だ有効な治療は無いため,近年のARTの妊娠率・生産率は頭打ちになっている。
妊娠は,受精卵(胚)が子宮内に接着し母体に侵入する着床という現象から始まる。着床では,胚も子宮も刻一刻と変化していく。子宮内では,さまざまな生命物質がお互いに協調しながら,このダイナイミックな着床現象を支える。
それらの物質のなかで,今回,着床に必要不可欠な白血病阻止因子(LIF,Leukemia Inhibitory Factor)を光遺伝操作の標的にした。まず,雄マウスと交配させた雌マウスに,青色光を照射した時だけゲノム編集機能を発揮する光活性化CRISPR/Cas9(光Cas9)の遺伝子を導入する。
その雌マウスに青色光を照射すると,光Cas9 のゲノム編集により子宮でのLIF遺伝子が破壊されてLIF蛋白が低下し,そのために着床が起きずマウスは妊娠しなかった。このマウスは,青色光を当てなければLIFに影響を及ぼさず普通に着床が起きて妊娠する。
さらに,青色光照射によりLIFが低下した不妊マウスの子宮に,新たにLIF蛋白を投与すると,ほぼ元通りに着床が起きて妊娠するようになった。
刻一刻と変化していく着床・妊娠現象の研究と治療には,時間的にも空間的にもピンポイントで解析・コントロールする技術が必要とされる。今回の研究では,マウスにおいて,狙った場所とタイミングで光を当てることにより,子宮内の生命物質の働きを変化させ,着床・妊娠をコントロールすることに成功した。
研究グループはこの成果について,着床現象の新しい研究解析手法を提示するに留まらず,着床不全などの不妊症の治療,着床をブロックすることによる避妊,あるいは子宮内での胎児治療など,新しい様式の生殖治療の開発につながることが期待されるものだとしている。