東北大学,岩手大学,高輝度光科学研究センターは,アクリル樹脂などの高分子材料の表面にMOFの薄膜を簡便に作製する手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
「多孔質材料」は,微細な大きさの空孔を持つ材料で,様々な物質を吸着しやすい性質を持つ。多孔質材料の多くは無機物だが,最近では,無機物と有機物を組み合わせた、「有機―無機ハイブリッド材料」からなる多孔質材料も開発されている。
その代表例に「金属有機構造体(MOF)」が挙げられる。MOFは金属イオンと有機分子がジャングルジムのように規則的に結合した物質で,内部に規則的なナノメートルサイズの空孔を持つ。また,数多くの金属と有機分子の組み合わせでMOFを組み上げることができ,自在な構造を設計・合成できるという特長もある。
これまでMOFの多くは粉末として得られてきた。これはMOFを合成する際に,原料となる金属イオンと有機分子を含む二種類の溶液を直接混合していたため。この手法は簡便かつ大量のMOF粉末を合成するのに適した方法であり,この手法を使ってMOFの研究は飛躍的に進んできた。
しかし,例えば「プラスチックの表面をMOFの薄い膜でコーティングしたい」など,「MOFを粉ではなく膜として作りたい」場面では利用しにくい手法だった。そこで研究グループは,高分子の薄膜を得るのに使われる交互吸着法に注目し,この手法がMOF薄膜の作製に適用できないか検討した。
これは基板を別々の二種類の溶液に交互に浸漬することで,基板表面に分子レベルの極めて薄い膜を連続的に作製できる手法。研究では,金属イオンの溶液と有機分子の溶液の二種類の溶液をそれぞれ用意し,これらに基板を交互に浸漬してMOF薄膜の作製を試みた。
基板の材料として,家庭でも用いられる一般的な高分子材料を四種類選んだ。得られたMOF薄膜の構造を放射光施設SPring-8を利用して分析した結果,高分子材料の極性に応じて異なる構造のMOF薄膜が得られることが分かったという。
具体的には極性の低いポリスチレンの表面にはMOF膜はあまり成長しなかったが,極性の高いアクリル樹脂や,ポリビニルアルコール,ナイロンの表面にはMOF膜を規則的に成長させることができた。
さらに,MOFが薄膜として得られたことで電子機能素子への利用の道が拓けた。例として,研究では活性層としてMOF薄膜を組み込んだ抵抗変化スイッチを動作させることに成功した。今後はMOF膜の成長原理のさらなる解明に向けた基礎研究と,電子素子への展開に向けた応用研究の両面から研究展開が期待されるとしている。