神戸大学,金沢大学,信州大学,東京大学は,人工光合成を行なう光触媒が水を分解してつくる酸素(O2)を従来比1000倍の速度で検出する計測評価法を開発した(ニュースリリース)。
人工光合成において,水から酸素(O2)をつくる効率が低いことが問題となっている。そこで研究グループは,人工光合成によって発生する酸素を高速検出する手法を開発し,水から酸素をつくる反応のメカニズムの解明につなげることを目指した。
研究では微小電極による水中の化学分析を要素技術として活用し,人工光合成光触媒から発生した酸素を水に溶けたままの状態で検出した。チタン酸ストロンチウム光触媒のパネルを水に沈め,直径20μm(髪の毛の1/4くらい)の白金線の側面をガラス被覆した検出電極を,光触媒パネルの表面から100μm沖合に置いた。
発光ダイオードからの紫外光(波長280nm)を光触媒パネルに照射すると,水とパネルが接する界面で水が分解して酸素(O2)と水素(H2)が水中に放出される。放出された酸素(O2)が水中を拡散して検出電極に到達すると,電極から4個の電子(e–)を受け取ってO2+2H2O+4e–→4OH–のような変化を起こす。
電極が酸素に渡した電子の数は,電極に流れる電流を測れば決定できる。今回,電極に流れる電流を0.1秒毎に測ることで,電極に到達する酸素(O2)の数を0.1秒毎に数えることができたという。これまで行われてきたガスクロマトグラフを使った酸素検出では,どんなに急いでも3分毎の測定しかできなかったため,この成果により1000倍以上の高速化を達成したことになる。
100μm下方の光触媒パネルから検出電極まで酸素(O2)が水中を拡散するために必要な時間は,フィックの拡散法則をもとにしてデスクトップPCで数値シミュレーションすれば求めることができる。
水中に電極をおろして測定した実験結果を,シミュレーション結果と比較することで,光触媒パネルに紫外光を照射してから酸素が水中に放出されるまでに1-2秒のおくれがあることがわかった。これは,ガスクロマトグラフによる酸素検出では決して観測することのできなかった新しい現象だという。
この「おくれ」は,光をあてられた光触媒が水を分解する態勢を整えるために必要な時間であると考えられる。この仮説の検証と,態勢を整えるあいだ光触媒は何をしているのかの検討はこれからだが,従来より1000倍高速な酸素検出によって,さらに人工光合成の研究が進むとしている。