理化学研究所(理研)は「半導体量子ドット超格子」を作製し,面内・積層方向の量子ドット間距離の制御により「量子共鳴」の次元制御に成功した(ニュースリリース)。
半導体量子ドットは,新しい蛍光材料や次世代光・電子デバイスとしての応用が期待されている。また,半導体量子ドットが規則的に配列した「量子ドット超格子」においては,隣接した量子ドット間の相互作用により,独立した個々の量子ドットとは異なる,量子ドット集合体としての新しい物性や機能性が発現する。
特に,量子ドット間の距離が2nm以下まで近接した場合には,「量子共鳴」と呼ばれる量子ドット間の波動関数(電子の広がり)の結合が生じる。量子共鳴により電荷移動度の劇的な向上が期待されるため,量子ドットを利用したデバイス応用に向けて,量子共鳴に基づいた光・電子物性の理解は重要となる。
有機溶媒中での化学反応により合成したコロイド状の量子ドットでは,量子ドットの表面が長い炭素鎖配位子で修飾されているため,量子ドット同士を近接させることは難しい。そこで研究グループは,長さの短い配位子を用いることで,量子ドット同士が近接した構造の作製を試みた。
まず,長さが0.5nm程度と短いN-アセチル-L-システインを配位子として用い,水熱合成法によりテルル化カドミウム(CdTe)半導体量子ドットを合成した。そして,正または負に帯電した物質を交互に吸着させる「layer-by-layer法」により,負に帯電しているCdTe半導体量子ドットと正に帯電しているカチオン性ポリマーの交互積層構造を作製した。
この手法により,面内に量子ドットがランダムに分散した単層膜試料と量子ドットが面内に密に配列した単層膜試料が作製される。さらに,積層方向にのみ量子共鳴が生じた試料と積層方向と面内方向に量子共鳴が生じた試料も作製される。
作製した試料を調べたところ,面内の量子ドット密度を制御できること,量子ドットが二次元面内で規則的に配列していること,量子ドット積層構造において,面内の量子ドット密度が低い場合の積層試料においても,面内密度が高い積層試料と同じ周期間隔で量子ドットが積層方向に配列していることが分かった。
さらに,面内方向の量子共鳴を制御できること,面内密度の高い積層試料においては面内方向と積層方向での三次元的な量子共鳴が生じて,面内密度の低い積層試料においては積層方向のみでの一次元的な量子共鳴が生じていること,作製した量子ドット超格子において,一次元,二次元,三次元的な量子共鳴が形成されていることが実証された。
この成果はナノ材料を利用した新規デバイスの実現に寄与するとともに,量子ドット超格子における多重励起子生成など,新たな光物性の解明につながるとしている。