京都大学と広島大学は共同で,光子の量子もつれ状態を,従来に比べて著しく高い効率で検証する方法の実証に,構築した6つの光子間量子ゲートを含む光量子回路を用いて成功した(ニュースリリース)。
電子や光子などの量子は,通常の物体とは異なった振る舞いをする。その量子の個々の振る舞いや相関(量子もつれ)を制御することで,飛躍的な計算能力を実現する量子コンピューターや,盗聴不可能な暗号を実現する量子暗号,さらに,従来の計測技術の限界を超える量子センシングなど,「量子技術」の研究が精力的に進められている。
その中でも,光子は長距離伝送が可能で,また室温でも量子状態が保存されるため,有力な担体となっている。特に,多数の光子がさまざまな経路・周波数(モード)に存在する量子もつれ状態は,光量子暗号の長距離化や,光量子センシング,また光量子コンピューティングのリソースとして注目されている。
しかし,その状態が「量子もつれ状態」であるかどうかの検証には,光子やモード数の増大とともに,そのための測定回数が指数関数的に増大してしまうという問題があった。
研究では,こうした量子もつれ状態の検証に必要な測定回数を著しく減少させた,より直接的な検証方法を実験的に実証した。量子もつれ状態の検証方法としては,従来は「量子状態を完全に同定する方法」 (量子トモグラフィー)が行なわれていた。今回,これに替わり,一般に2つの光子間のもつれ合いの検証に用いられている「ベルの測定方法」を一般化した光量子回路(量子フーリエ変換回路)を用いる手法を実現した。
また,実証実験にあたっては,量子フーリエ変換回路の動作を実現するために,多数の入り組んだ光干渉計を,光の波長の100分の1程度で安定化する必要があったが,特殊な干渉計を利用する事で,極めて安定な光量子回路としての動作を実現したという。
今回の成果により,多数の光子の量子もつれ状態を,極めて効率的に(指数関数的に少ない回数の測定で)評価でき得ることを実証した。このような量子もつれ状態を利用した量子暗号通信の長距離化や光量子シミュレーションなどが提唱されており,将来的には,高度なセキュリティを備えた安全・安心な暮らしや,新規化学物質の開発などへの応用も期待されるとする。
研究グループは,今後,今回実現した方法を,より大規模な光子の量子もつれ状態への適用を目指すとともに,今回実現した光量子回路のオンチップ化にも取り組むとしている。