国立天文台(NAOJ)と中国国家天文台らの研究グループは,極端に多くのリチウムを持つ星は,中心部でヘリウムの核融合を起こす進化段階にあることを明らかにした(ニュースリリース)。
太陽のような恒星は,中心部での水素の核融合により長期間にわたって輝き続ける。しかしその結果として中心部の水素がヘリウムにかわってしまうと,ヘリウムを主成分とする中心部の周辺で起こる水素の核融合が星を支えるようになる。
このときに星の明るさは増し,赤色巨星とよばれる段階に移行する。この際に星の表面付近の対流が活発になり,内部の物質と表面物質がよく混ざった状態となる。
水素・ヘリウムについで軽い元素であるリチウムは,高温となる星の内部では壊れてしまうため,対流の活発な赤色巨星においては表面でもリチウムの量が少なくなることが知られている。ところが一部の赤色巨星ではリチウムの量が予想よりも何桁も多くなっていることが知られており,大きな謎となっている。
最近の観測で,この異常なリチウムの増加を示すのは,赤色巨星のなかでも中心部でヘリウムが核融合を起こしている段階の星(クランプ星)であることを示唆する結果が得られ,この問題の解明への手がかりと考えられている。しかし赤色巨星の進化段階を見分けるのは容易ではなく,断定することができなかった。
研究グループは,中国の分光探査望遠鏡LAMOSTの観測でリチウムの多い赤色巨星を多数発見し,そのうち134天体について,ケプラー衛星のデータに基づいた星震学の手法によって進化段階を明確にした。そしてその多くが中心部でヘリウムの核融合を起こしているクランプ星であることを初めて明瞭に示した。
リチウム組成が極端に高い星はこの進化段階において特に集中的に現れることがわかった。この研究において,すばる望遠鏡は26天体について精度の高い分光観測を行ない,信頼性の高いリチウム組成を得て上記の結果を裏付ける役割を果たしたという。
赤色巨星におけるリチウムの異常な増加は,星の構造や進化を理解するうえで基本的な問題が依然として残されていることを示すもの。リチウム増加のメカニズムは未解明だが,それが起こる進化段階がわかってきたことは謎の解明に大きな一歩となるという。
すばる望遠鏡で取得した分光データには,リチウム以外の元素の情報も豊富に含まれており,リチウム過剰な星の特徴をさらに詳細に解き明かすための貴重なデータになるとしている。