京都大学,量子科学技術研究開発機構は,京都大学エネルギー理工学研究所の自由電子レーザー装置(KU-FEL)において,共振器型自由電子レーザー(FEL)の世界最高変換効率を達成した(ニュースリリース)。
極短パルス高強度レーザーと物質の相互作用においては,レーザー波長が長くなると,高次高調波発生によるアト秒X線パルスの生成に有利となる。このため,レーザーの発振波長を,近赤外(1-4μm)から中赤外(4-8μm),長波長赤外(8–15μm)へと拡大する研究がさかんに行なわれている。
高エネルギーに加速した電子ビームを使ってレーザー発振を行なう共振器型自由電子レーザーは,赤外を含む広い波長領域で動作可能だが,アト秒X線の発生をはじめとした強光子場科学への応用には,電子ビームからレーザーへのエネルギーの変換効率を向上して,レーザーパルスエネルギーを高めると同時に,極短パルスの生成方法を確立する必要があった。
研究グループは,KU-FELにおいて変換効率を増大させ,レーザーパルス強度を高めるため,以下に示す装置の改良と運転条件の最適化を行なった。
①電子銃から電子を発生する方法を,従来の熱陰極方式から光陰極方式へ変更し,電子ビームパルスの電荷量を60pC(1pCは電子約600万個に相当)から190pCへ大幅に増大することに成功した。
②電子銃と加速器に供給する高周波電力の周波数に変調を与え,マクロパルス(電子パルス持続時間,7μs)の内部で電子ビームの繰り返し周波数を変化させる技術(DCD法)を採用。共振器型FELでは,FELパルスの立ち上がり(レーザー増幅)と飽和強度が光共振器長に依存する。特に,共振器長を電子の繰り返しに正確に合わせた時に,超放射発振と呼ばれる高い効率の発振が起こることが知られている。
DCD法を使えば電子ビームの繰り返しに変調を加えることで,光共振器長を瞬時に変化させるのと同等の効果を得ることができる。これにより,マクロパルスの限られた時間内で,FELの早い立ち上がり(レーザー増幅)と高い飽和強度を両立することに成功。FELの変換効率を求めた結果,マクロパルス最終部での変換効率が9.4%と求められ,これまでの最高値9%を18年ぶりの更新した。
超放射発振では変換効率の増大とパルスの短縮が同時に起こることが知られており,この実験でも極短パルスが生成されていると考えられるという。今回の成果は,これまで未開拓であった長波長赤外領域における強光子場科学の研究やアト秒X線源の開発に寄与するとしている。