近畿大学,京都大学,独ハンブルグ大学は,「光格子」中を飛び回る原子の運動に非局所相関という形で,量子的な波の伝達の位相成分に相当するものを観測することに成功した(ニュースリリース)。
研究は,光格子中に,局在したボース原子に対し,光格子を急激に下げて原子を自由に飛び回れるようにし,そこからの系の応答を実験的に研究した。初期状態は,1サイトに1つの原子があるが,原子は自由に飛び回れるようになると,1つのサイトに2つの原子がある状態と,原子がない状態が生まれる。
この2つある状態と1つもない状態は,それぞれ相関をもって広がっていく。研究では,この非局所相関の広がりを,独自に開発した手法を用いて,この原子の運動の量子的な波の伝達の位相成分に相当するものを観測した。これまで,原子数相関を観測した先行研究はあるが,位相成分に相当することができたのは初めて。
非局所原子相関については,1次元系,2次元系で測定した。時間とともに相関の値は大きくなるが,振動しながら一定値に落ち着く。極大値を得る時間に注目したところ,一定の速度で広がる,弾道的な相関の広がりを観測した。1次元系では,量子気体顕微鏡を用いた先行研究があるが,2次元系では初めての観測となる。
実験結果は,1次元系では理論計算とよい一致を示した。一方,2次元系では定性的な一致にとどまった。こうして,光格子中原子を用いた,非平衡ダイナミクスにおける量子シミュレーションとしての有用性を示すことができた。
また,運動・相互作用エネルギーの再分配についても,独自の手法を開発して研究した。エネルギーの再分配では,1次元系,3次元系で測定し,いずれもエネルギー保存則が成り立っていることを実験的に確認した。エネルギー保存則は物理学での重要な保存則だが,量子多体系における世界で初めての実験的な確認だという。
今回の3次元の実験系は,10000格子点に10000個もの原子が含まれるような量子多体系であり,厳密な計算には10^6018個という膨大な数の状態を扱う必要があるため,コンピューターで厳密な計算を実行することができない。
そこで,切断ウィグナー近似法という近似的な数値計算手法を用いてシミュレーションし実験結果と比較を行なった。その結果,この近似法がエネルギーの再分配ダイナミクスを非常に高い精度で再現することがわかり,多数の粒子からなる量子多体系のダイナミクスを正確に記述できる近似法を見出した。
研究グループは今後,今回の成果が量子多体系の量子シミュレーションの新たな潮流になると期待されるとしている。