広島大学の研究グループは,有機EL用の高分子を溶かした溶液に筆を浸し,絵を描くように塗り乾燥することで,配向度の高い配向膜(最大で80%以上の高分子が同じ方向に並ぶ)を得ることに成功した(ニュースリリース)。
導電性高分子(電気を流すプラスチック)は,高解像テレビ,折り曲げ型スマートフォン等の有機ELとして実用化され,今後,しなやかなスマートデバイス(体に貼るセンサーや端末など)の基幹材料として期待されている。
一方,これらデバイスの性能向上には,分子の配向が極めて重要となる。配向は,センサーの応答速度,画面の明るさ,省電力化に,数100倍にも及ぶ大きな性能向上として寄与する。
筆で塗る手法(ブラッシュ-プリンティング法)による,発光する高分子の配向膜の作製は世界初。また,地図(マッピング)による配向度の可視化,三次元空間での500万個という膨大な実験データを解析する手法の開発も,それぞれ世界初の成果となる。
緑色発光する有機EL用の導電性高分子(F8BT)を溶媒に溶かし,F8BTの溶液を作った。その溶液に筆を浸し,絵を描くように基板(例えばガラス板)を塗り乾燥することで,高分子が一軸配向する配向膜が得られた。顕微分光測定より配向膜の地図を作り,配向度を可視化した。
地図の各画素(750×750 画素,画素サイズ 1μm2)は,X-Y-Z の三次元のデータ(偏光発光スペクトル,偏光ラマンスペクトル,配向膜の厚さ)を含み,データ総数は500万個に及んだ。膨大なデータを統計的に解析し,配向メカニズムを三次元空間で詳細に解析したところ,以下の成果を得た。
1)筆で塗った方向と平行に,緑色発光する高分子が配向(最大80%以上の分子が配向)。
2)膜厚100nm以下で高い配向(膜厚400nmで配向度が1/4に低下)。
3)筆圧(せん断応力)が配向度に重要。
4)塗る速度が速くても遅くても配向度は下がり最適値が存在(非ニュートン性)。
5)配向膜を使った有機ELを作製。
その他,高分子のねじれ構造と配向度の相関,発光の大きな偏光比(最大で11の偏光比)も観測された。
今後,実験条件を変え,研究を展開する予定。開発した手法は,今後の有機EL製造における基幹技術,具体的には薄型でしなやかなスマートデバイス(ウエアラブルデバイス,スマートウオッチ,スマートフォン等)の開発において,外光反射防止・高輝度表示の高度化が期待されるという。また,それらの材料となる偏光発光フィルムの製造が,ロール・ツー・ロール法で実現することも期待されるとしている。