東京理科大学は,プロトン伝導によるプロトン(水素イオン)濃度すなわちpHの局所的な変化に応答して緑色〜黄色〜赤色の発光色を変化させる透明高分子膜の開発に成功した(ニュースリリース)。
透明性の発光材料は,省エネ材料の一つとして照明,ディスプレー,セキュリティーなど様々な分野での応用が期待されている。特に高分子素材を用いたものは,サイズや形状の自由度が高いことから最近高い関心が集まっている。
発光材料が発する光の波長範囲は種類ごとに決まっており,目的に応じて異なる材料を用いることができる。もし,同一の発光材料が条件によって異なる波長(=異なる色)の光を発することができると,応用分野が広がり大変興味深い材料になる。
今回,研究グループでは,異なるpH領域で発光可能な2種類の発光性希土類錯体,それぞれ緑色と赤色の光を発するテルビウムイオン(Tb3+)とユウロピウムイオン(Eu3+)の2種の希土類イオンを含む錯体を用いた。
これらをプロトン伝導性の陽イオン交換高分子膜「ナフィオン」の中に取り込ませ,電圧の印加によって膜内部のプロトン濃度(=pH)を局所的に変化させることによって,緑色から黄色を経て,赤色に発光色を可逆に切り替えることに成功した。
ナフィオンは炭素とフッ素で構成される疎水性の主鎖骨格とスルホン酸基を有する親水性の側鎖から成る高分子で,燃料電池の電解質膜としての利用など,様々な先端材料に使用されている。
水やアルコールなど極性溶媒で膨潤させると,溶媒分子が極性の高い側鎖で取り囲まれた直径約4nmの逆ミセル空間と,それが5nm程度の間隔でつながった特徴的な構造が形成される。このミクロ構造が高いプロトン伝導性の由来になっている。また,その空間に比較的大きな陽イオン性物質を取り込めるという特徴を持つ。
今回,膜中の局所的なプロトン濃度の変化に応答して発光色がマルチカラーで変化する透明高分子膜の開発に成功した。この成果を活用することにより,プロトン移動によってマルチカラーで発光するこれまでにない発光素子を作製できると考えられるという。
その他,イオン(プロトン)が伝導して発色の変化が見られることから,生体試料中の異なるpH領域を可視化する染色法としての活用や,生体中のpH変化を細胞レベルで検出するセンサーの開発などにつながることが期待されるとしている。