東大ら,1秒に1億回計測する分子分光法を開発

東京大学は,従来手法よりも約100倍速い計測を可能にするタイムストレッチ赤外分光法(time-stretch infrared spectroscopy,TS-IR)の開発に成功し,1秒間に約1億回の計測を実現した(ニュースリリース)。

広い赤外光スペクトルを計測するフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は,1秒間に1スペクトル程度の計測速度だったが,近年,光周波数コムによるデュアルコム分光の計測手法により,1秒間に100万スペクトルの計測の可能性が示されてきたものの,そのS/N比から,これ以上の高速化は見込めなかった。

今回研究グループは,S/N比の高い波長掃引型の赤外分光法である,TS-IRを開発し,デュアルコム分光法よりも約100倍速い,1秒間に約1億スペクトルの計測が可能であることを実証した。

TS-IRは,パルス光のスペクトル形状をパルスの時間波形に焼き直して,その時間波形を計測することによりスペクトルを計測する。この手法を実現するには,①フェムト秒パルス光,②フェムト秒パルス光をナノ秒パルス光に時間的に伸張する機構,③ナノ秒パルス光の波形を計測する高速光検出器の3つの要素が必要となるが,赤外領域ではこれらの要素技術が不足していた。

研究では,要件を満たす3つの先端技術,①自作の光パラメトリック発振器による赤外フェムト秒パルスレーザー,②free-space angular-chirp-enhanced delay(FACED)と呼ばれるパルス伸張機構,③浜松ホトニクスが開発した極めて高い応答速度(数GHz)を持つ量子カスケード光検出器を用いることで,この手法を実現した。原理検証実験では,有機溶媒であるフェニルアセチレンのC-C三重結合の基準振動の4.7μm帯の赤外吸収スペクトルを毎秒80,000,000スペクトルの速度で明瞭に計測することに成功した。

これにより,ナノ秒からマイクロ秒の時間スケールで不可逆的な構造変化をする分子のダイナミクスを計測することや,単位時間あたりに多くの計測を必要とする分析(広いエリアをスキャンするイメージングや,多数の細胞を計測するフローサイトメトリーなどへの応用が期待されるという。

今回,比較的狭い領域のスペクトルを低い分解能で取得した。さらに広い領域のスペクトルを高い分解能で取得できるシステムを開発することで,用途の幅がいっそう広がることが期待される。一方で,長時間の計測により,極めて広いスペクトルを極めて高い分解能で取得する用途には,従来型のフーリエ変換赤外分光法やデュルコム分光法に分があるとしている。

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