神戸大学と立命館大学は,植物の光合成CO2固定反応を担う酵素Rubiscoの触媒活性を大幅に増加させることに成功した(ニュースリリース)。
植物の成長速度は主に光合成能力によって決まっている。よって、光合成能力の改良は農作物の収量増加につながる。Rubiscoは光合成において最初にCO2を有機物に変換する反応を触媒する酵素。Rubiscoは触媒活性が非常に低いこと,競争的にO2によって阻害されることから,光合成の主要な律速因子となっている。
Rubiscoの触媒活性には種間差がある。一般的な光合成を行なうC3植物には,イネ,コムギ,ダイズなど主要な農作物のほとんどが含まれ,C4光合成回路と呼ばれるCO2濃縮機構を獲得したC4植物には,トウモロコシやサトウキビなどが含まれる。C3植物では触媒活性が低く,C4植物では高い傾向がある。
触媒活性の高いRubiscoはO2に阻害されやすい性質を持っているため,CO2濃度の低い大気条件で,CO2濃縮機構を持たない場合は必ずしも有利とはならない。しかし,現在の大気CO2濃度は増加を続けており,C3植物もC4植物のような高活性型Rubiscoを持つことが,光合成能力の改良に有効と考えられるという。
研究グループは,C4植物であるソルガムのRubiscoのタンパク質をC3植物のイネに遺伝子組換えにより導入することで,イネRubiscoの触媒活性を1.5倍に増加させることに成功した。次に,このイネの元のタンパク質をノックアウトしたところ,触媒活性がC4植物と同等レベル(約2倍)にまで高くなった。
Rubiscoの触媒特性の改良で,触媒活性をこれだけ大幅に増加させた例はなかったという。さらに,このイネは葉におけるRubiscoの量が30%以上少なかったが,CO2濃度の高い条件では非組換えイネよりも高い光合成能力を示した。
RubiscoのX線結晶構造解析を行なったところ,アミノ酸分子の大きさの違いにより分子間の隙間が大きくなっており,触媒部位が柔軟になることで触媒活性が高くなったのではないかと考えられたという。
作出した系統は高い光合成能力を示したが,収量は増加していないが,研究グループは,Rubiscoを適切にコントロールすれば成長速度や収量を大幅に増加させることが出来るのではないかとしている。また,同様の方法で主要な作物のRubiscoの触媒活性を高めることができるかを明らかにすることも重要。また,アミノ酸の働きについても,さらなる解析を進めていくとしている。