大阪大学,東京大学,早稲田大学,核融合科学研究所,露モスクワ工学物理工学研究所国立原子力大学,露レベデフ物理学研究所,仏ボルドー大学,独ドレスデン工科大学,米カルフォルニア大学サンディエゴ校所属らの研究グループは,パワーレーザーを使って超強磁場を作り,相対論的磁気リコネクションという前人未踏のプラズマ現象を実験室内で起こすことに成功した(ニュースリリース)。
パワーレーザーを用いると,高温・高密度のプラズマを比較的容易に作りだすことができる。今回対象とした,相対論的磁気リコネクションは,地球から遙か遠くで起こっている現象であるため直接観測は不可能で,数値シミュレーションが唯一の研究手段だった。
磁気リコネクションと呼ばれる現象は,磁束の保存則により途中で切れることはない磁力線が,プラズマ中では別の磁力線とくっ付いてから切れる,つまり繋ぎ変わる現象。磁気リコネクションは磁場の形を変えるだけでなく,その過程で磁場のエネルギーの一部がプラズマの熱や運動エネルギーに変換される。この現象によって,太陽コロナの加熱や太陽表面からプラズマが吹き出す”フレア”が引き起こされる。
太陽表面での磁気リコネクションは古典的磁気リコネクションに分類され,磁場が強くなるにしたがい,磁気リコネクションにおいて相対論効果が重要になってくる。これを相対論的磁気リコネクションと呼ぶ。
相対論的磁気リコネクションは,ブラックホール周囲からの高エネルギーのX線が突発的に放射される現象との関連が示唆されている。降着円盤のコロナプラズマ中で相対論的磁気リコネクションが起こり,それに伴って電子が超高温に加熱されることが高エネルギーのX線の源であるとするモデルが提唱されている。
相対論的磁気リコネクションを起こすためには,非常に強い磁場が必要なため,相対論的磁気リコネクションを地上で再現した例は,これまで報告されていなかった。
大阪大学では,パワーレーザーを用いた磁場の発生に取り組んでおり,今回,世界最大級のパワーを誇るLFEXレーザーとマイクロコイルを使うことで,2キロテスラを越える磁場を生成し,この強磁場を使い地上で初めて相対論的磁気リコネクションを起こすことに成功した。
また,相対論的磁気リコネクションに伴って,プラズマを構成する電子と陽子が高温に加熱されることも観測され,ブラックホール周囲からの高エネルギーX線の突発的放射の謎の解明へと貢献することができた。
パワーレーザーを用いた宇宙物理実験は,今まで遠くから眺めるしかなかった宇宙現象を,目の前で作り出すという夢と希望に溢れた研究であり,また,相対論的磁気リコネクションは,新しいレーザー粒子加速機構としての応用も期待されるとしている。