日本触媒とNHKは共同で,有機ELの低消費電力化と長寿命化に寄与し,様々な有機エレクトロニクスデバイスの高性能化にも用いることのできる新しい電子注入技術を開発した(ニュースリリース)。
これまで,有機ELをはじめとする有機エレクトロニクスデバイスでは,電極金属と有機材料の間での電子のやり取りをスムーズに行なうことを目的としてアルカリ金属などの材料が用いられてきたが,これらは有機材料との反応性が高いことからデバイスの劣化の要因とされている。またアルカリ金属は空気中の酸素や水分に弱く厳重な封止を必要とするため有機薄膜デバイスのフレキシブル化に対する課題だった。
これらの課題に対し,両者は,電極金属と有機材料との間に大きな分極を生じさせる配位結合を用いた電子注入技術により,アルカリ金属のような反応性の高い材料を用いることなく有機ELの低消費電力化と長寿命化を実現できることを見出した。
この配位結合による新たな分極型電子注入技術は,有機ELの低消費電力化や長寿命化へ資することはもちろん,電子の取り出し技術へも応用することで,有機太陽電池のエネルギー変換効率の向上や有機センサーデバイスなどの高感度化などへも寄与できると考えられ,フレキシブルデバイスの早期実現への貢献が期待されるもの。
また,日本触媒が開発中のiOLEDフィルム光源に対しても,既存製造設備への適用が可能となり製造プロセスの簡略化による大幅なコスト削減が期待できるという。
この技術に用いた材料は塩基性の有機化合物で,種々の金属元素への配位によって安定な錯体を形成し,その配位力の強さに応じて金属原子との間で電荷の偏り(分極)が発生する。
今回,研究グループは,はこの有機化合物について数種類の誘導体を設計・比較することで,配位力の強さと電子注入性の間に相関があることを見出し,有機化合物と金属を含む陰極との界面で生じる分極が電子注入を促進していることを明らかにした。