NECと電力中央研究所は,コンクリート電柱に共架している既存の通信用光ファイバーを振動センサーとして活用する光ファイバーセンシング技術やAI技術を応用した実証実験を実施し,振動データから電柱のひび割れの有無を判定することに成功した(ニューリリース)。
近年,国内の電力送配電事業者においては,送配電設備の保全・工事の担い手不足や,災害時の設備被害の状況の迅速な把握といった課題があり,配電設備の点検・管理業務の高度化且つ効率化を実現する仕組みが求められている。
特に現在,国内の電力会社は2200万本以上の電柱を保有しており,これらの経年劣化の状態や,災害時における被害状況の把握の効率化が課題となっている。
今回,NECは電中研の協力のもと,光ファイバーの振動波形の遠隔測定を可能とする光ファイバーセンシング技術や,振動データを基に解析・分類を行うAI技術を組み合わせた分析システムを用いて,電柱の劣化状態を判定する際の重要な基準であるひび割れの有無を遠隔で判定できることを確認した。
この光ファイバーセンシング技術では,光ファイバーケーブルの片端から光パルスを送信し,微弱な戻り光(後方散乱光)の位相の変化を検出することで,経路上に生じた振動などの状態変化を測定する。
実証実験では各電柱設置地点を事前に特定し,そこから得られる振動波形を各電柱の自然振動として継続的に取得する。また,NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の一つである「RAPID機械学習」により,この振動波形と電柱のひび割れの有無をセットとした学習モデルを構築する。これらにより,遠隔での電柱のひび割れ有無の判定を行なう。
光ファイバーから得られる振動には周辺音響や交通振動まで様々含まれるため,フィルタを適用して電柱に起因する振動成分を抽出する必要がある。今回の実証では,試験対象の電柱群の振動特性を事前に調査・設定することで振動成分を抽出したという。
実証実験は電中研 赤城試験センター構内の電柱を用いて行なわれ,その結果,ひび割れ電柱を遠隔から約75%の精度で判定することに成功した。両者は今後,より広範囲な構造・材質の電柱へ対象を広げる等,多様な環境での評価検証・判定制度の向上に取り組むとしている。