東大ら,反強磁性と高温超伝導の共存を証明

東京大学,東京理科大学,理化学研究所は,酸化物高温超伝導体が示す,反強磁性と高温超伝導が共存する性質を解明した(ニュースリリース)。

銅酸化物高温超伝導体の超伝導は,モット絶縁体である反強磁性銅酸化物にキャリアを注入することで発現する。その際に「反強磁性を乱さずに超伝導電子を形成できるのか」,「超伝導電子の形成には反強磁性を乱すことを前提とするのか」で論争があった。

銅酸化物高温超伝導体の超伝導は,電荷供給層から超伝導面(CuO2面)へキャリアが注入されることで発現する。これまでの研究では,CuO2面が1枚または2枚ある構造的にシンプルな物質が主な対象だった。

これらは合成し易い利点がある一方,電荷供給層が超伝導面に直接接する影響から,構造的に歪みが生じ,またキャリア注入に伴うランダムな元素置換により電荷分布が不均一となる,「乱れた超伝導面」が形成されることが指摘されていた。

それを解消するため研究グループは,CuO2面を5枚持つ多層型銅酸化物高温超伝導体に着目。この物質は,電荷供給層に隣接しない内側に配置されたCuO2面を有する。この内側のCuO2面は,構造的に平らになると同時に,電荷供給層がもたらす空間的に不均一なキャリア注入や欠陥の影響から外側のCuO2面によって保護されているため,理想に近い極めて「綺麗な超伝導面」として機能することが期待されるという。

研究グループは,精密なレーザー光電子分光測定および強い磁場を用いた量子振動測定から,外側のCuO2面に比べ内側のCuO2面では伝導電子の散乱が抑制され寿命がより長く,確かに「綺麗な超伝導面」が形成されていることを見出した。

また,その「綺麗な超伝導面」において,30年もの間予想されつつも観察されずにいた,反強磁性状態を反映する「小さなフェルミ面」を初めて観察することに成功し,同時に超伝導電子の存在を確認することで,反強磁性を乱さずに超伝導電子を形成できることを示し,論争に終止符を打つこととなった。

この結果は,今後,高温超伝導のメカニズムを解明する上で多大な波及効果をもたらすもの。特に,これまで認知されてきた電子相図が,結晶面の歪みと不均一な電荷分布を伴う「乱れた超伝導面」に特化したものである可能性が出てきたため,今後,「綺麗な超伝導面」を舞台とする銅酸化物高温超伝導体の「真の」電子相図を解明する必要があり,高温超伝導体の研究分野に新たな扉が開かれたとしている。

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