東北大ら,UV-C LED光無線の高速変調機構を解明

東北大学,情報通信研究機構(NICT),創光科学は,世界初のギガビット級ソーラーブラインド光無線通信を実現した深紫外LEDの高速変調メカニズムを解明した(ニュースリリース)。

深紫外波長帯の光はオゾン層にて吸収されるため,我々が暮らす地表における太陽光にほぼ含まれていない。このため,このような光を用いた光無線通信は太陽光に不敏感,すなわち「ソーラーブラインド帯」として知られ,日中の屋外においても低雑音環境での無線通信が原理的に期待できる。

一方,第5世代携帯電話網,いわゆる5GやBeyond 5Gにおける通信帯域資源の枯渇対策として,可視波長帯や赤外波長帯のLEDに代表される安価な光源に基づいた光無線通信システムが注目されている。最近では,異なる発光色を有する複数の微小LEDを用いた波長多重伝送により,5Gの要件に応える10Gb/s超の伝送実験結果も報告されている。

しかし可視波長帯や赤外波長帯は太陽光や室内照明に多く含まれることから,ユースケースが屋内に限定されることが多いという問題があった。これに対し研究グループは,深紫外AlGaN LEDを用いて,2018年に世界で初めて2Gb/sを超える高速光無線通信を室内照明環境のもと実現し,翌2019年には,真夏の屋外においてもGb/s級光無線通信が安定的に実現できることを実証した。

これらの実証には,高速変調を可能とするために特別に作製された通信用の微小LEDではなく,電極面積の比較的大きな殺菌用AlGaN量子井戸LEDが用いられた。しかし,なぜそのような高速通信が実現したかというメカニズムの解明には至っていなかった。

そこで研究グループは,当該LEDの光物性を,高速な光現象を観察できるストリークカメラや,高精度な深紫外光学顕微鏡を用いて評価し,自己組織的に形成された多数の微小発光点が存在することを発見した。その結果,微小発光点一つ一つが微小LEDとして振る舞い,素子全体の電気容量を実質的に低下させることにより変調速度が向上し,高速通信が実現されたことが分かった。

この成果は,変調速度を向上させるほど光出力が低下する,通信用LEDの微小化戦略が抱えていたジレンマを解消できる可能性があるという。また,殺菌用LEDを流用する形でソーラーブラインド高速光無線通信が実現できることから,コスト面からも有用であることも明らかになった。

研究グループは今後,より高速なソーラーブラインド光無線通信の実現に向けて,LEDや通信路の改善を行なう。また生態侵襲性を考慮し,より微弱な光を使った深紫外光通信の可能性を検証するとしている。

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