京大,うねりを持つグラフェンナノリボンを合成

京都大学は,5~7員環芳香環を含んだうねり構造を有する新規グラフェンナノリボン(GNR)の完全精密合成に成功した(ニュースリリース)。

グラフェンを細く切断した帯状のグラフェンナノリボン(GNR)と呼ばれる物質は,適切なバンドギャップを有するため,トランジスタなどの半導体材料として特に注⽬されている。バンドギャップ値の制御は,GNRの構造中に格⼦⽋陥を含ませることで可能になる。

また,GNRの性質はその幅や⻑さにより異なることが知られているが,エッジ構造の違いでも構造強度や酸化還元反応活性が変わり,特徴ある性質を⽰すことが知られている。

研究グループは,GNRの構造中にベンゼン環と異なる芳⾹環を部分的に組み⼊れた新しいGNRを創製することを計画した。アズレンと呼ばれる⾮ベンゼノイド芳⾹環に注⽬し,これを格⼦⽋陥として⾼密度に複数個組み込んだGNRを設計した。これまでアズレンを含んだGNRは理論計算で⾼機能性を持つことが予⾒されていたが,その構造を精密に合成する⽅法が限られており,アズレンを含むGNRの精密合成は困難とされていた。

今回研究グループは,「10π電⼦環状反応による新たなアズレン環構築法」を開発し,⼊⼿し容易な合成原料から連結したアズレン環を含むGNRを合成することに成功した。その前段階の原料は,研究グループが以前に開発した独⾃の反応を論理的に組み合わせることで合成している。

合成したアズレン含有GNRの基礎的な性質を解析したところ,以下の特徴が明らかになった。
① ひとつのGNR構造中に,コーブ型エッジ,アームチェア型エッジ,ジクザグ型エッジを併せ持つ
② コーブ型エッジが従来のベンゼン型GNRのそれより狭くひずんでおり,GNR全体が「うねり」を持つらせん型⾮平⾯π構造を⽰す
③ GNRが会合している
④ GNR中に含まれるアズレン部分の芳⾹族性が、本来のアズレンより芳⾹族性が弱い

開発したアズレン環構築法の化学収率にはまだ改善の余地があり,他のGNR合成への適⽤も課題だという。合成法⾃体は簡便であることから,研究グループは今後,原料の種類を変えて,幅・⻑さ・エッジ構造の異なる連結アズレンを格⼦⽋陥とするGNRを合成し機能を明らかにするとともに,医薬利⽤を含めたナノデバイスへの応⽤が期待されるとしている。

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