東大ら,磁場による強相関絶縁体の金属化を発見

東京大学と岡山大学は,タングステン(W)を僅かに添加した二酸化バナジウム(VO2:W6%)が,世界最強クラスの磁場500テスラにおいて絶縁体から金属に変化することを発見した(ニュースリリース)。

VO2は低温の絶縁体状態から約67℃で金属に相転移するため,スイッチやセンサーへの応用が期待されている。しかし,強い電子相関のため,その絶縁体金属転移のメカニズムは十分理解できていない。

実験では,磁場による電気伝導性の変化を近赤外レーザーの光透過強度から検出した。絶縁体状態では光透過率は高いが,金属化で急激に透過率が減少するため,電気伝導性の変化を知ることができる。

VO2に加えて,タングステン(W)を添加したV1-xWxO2 (x=0.036,0.06)を対象試料に準備した。Wを添加することで転移温度が低くなることが分かっており,xが大きい試料では,磁場効果が観測しやすいと考えた。また,磁場印加時の渦電流による発熱を避けるために,パルスレーザー堆積法による薄膜結晶を用いた。

その結果,温度14Kにおいて,およそ100テスラを超える磁場から透過強度が減少し,500テスラで金属状態に変化する様子を捉えた。一方,x=0.036の結晶では,200テスラ以上の磁場で金属化への兆候が観測され,VO2(x=0)では,540テスラの磁場まで絶縁性が維持されることがわかった。

今回測定した薄膜結晶の金属絶縁体転移温度TMIは,x=0.06,0.036,0のそれぞれで,およそ100,200,300Kであり,TMIの上昇に伴い金属化に必要な磁場が高くなることが明らかとなった。0.036では完全な金属化に600テスラ程度が必要と予想でき,VO2(x=0)では1000テスラ以上が必要になる可能性があるという。

この研究におけるスピン制御による金属化の発見は,VO2における電子の局在化がバナジウム原子間の分子軌道形成によって起こることを強く示唆する。磁場による分子軌道の崩壊現象は,中性子星などでは理論的に予想される一方,地球上で人工磁場を用いる環境においては発想されたことすらなく,今回の発見は画期的だという。

発見された強磁場金属相は,電子相関の強いエキゾチックな性質を持つ可能性があり,その理解は今後の課題。今後,実現が期待されるスピン制御スイッチング素子やモット転移FETなどの室温動作量子機能デバイスの開発に大きく貢献するだろうとしている。

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