農研機構とかずさDNA研究所は,X線CT1を応用し,土中の作物の根を非破壊で迅速・簡便に3次元的に可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。
根は作物生産にとって重要な器官だが,これまで,根菜類以外のイネやダイズなどの作物において,可食部でない根の改良はほとんど進んでいなかった。通常,品種改良の際は優良個体を選抜するために数千~数万個体の調査が必要だが,土中にある根を掘り起こし,洗い出すには多大な労力がかかり,多数個体の調査は不可能だった。
見えない物体の中の構造を観察する手法の1つに,X線断層撮影(X線CT)があり,工業・医学の分野で幅広く使用されている。ポットで栽培した植物の土中の根についても,これまでに海外でX線CTを用いた可視化が試みられていたが,可視化に数時間かけて詳細な画像を得るという方法であり,多数個体の調査には適していなかった。また,長時間の撮影は植物体の生長への悪影響もある。
今回,研究グループは最新のX線CTを導入し,またX線CT撮影と画像処理技術の最適化を行なうことにより,”土中で3次元的に生長する根の形”を非破壊・迅速・簡便に可視化する技術を開発した。
この技術では,最大で直径20cm,高さ25cmの栽培ポットに植えたイネの根を可視化できる。細かい根(側根)の可視化は省略し,”根の形”を決定する種子根と冠根のみを可視化するようX線CTの撮影条件を最適化することで,大きなポットに植えられた根の形全体を短時間で可視化することに成功した。これは,国内で栽培されているイネやコムギなどの根であれば,根の形を評価するには十分なサイズだという。
この技術では,3次元メディアンフィルターおよびエッジ抽出という比較的単純な画像処理により,860枚のX線CT画像から根の3次元画像を再構成する。その結果,パソコンの処理能力にもよるが,最短でCT撮影時間10分(多少画質が劣化しても問題ない場合は最短約30秒のCT撮影でも解析可能),画像処理2分の合計12分で”土中の根の形”を可視化できる。
この技術を用いれば,根の成長など経時変化も簡単に可視化できる。過去の文献から許容撮影回数を算出したところ,10分間の撮影(X線照射)だと140回の撮影でも植物体の生育に影響がないと推定されたという。
本技術によって”土中の根の形”を非破壊・迅速・簡便に観察できるようになったことから、今後イネにおいて、品種改良が困難だった根の品種改良が加速すると期待できます。また、撮影条件を改良することで、イネ以外の様々な作物種でも根の観察が可能になります。