千葉大ら,長鎖のポリカテナンを合成しAFM観察

千葉大学を中心とする国際研究グループは,世界で初めて数万個の小分子が自己集合することで,リング状構造が鎖のように連なったポリカテナンを合成し,さらに,その幾何学構造を原子間力顕微鏡(AFM)で可視化することに成功した(ニュースリリース)。

カテナンとは,環状の分子が鎖のように繋がってでき上がる分子の名称で,機械的な動きを示す分子(分子機械)の実現には欠かせないパーツとされる。「鋳型合成法」と呼ばれる合成方法が開発されて以来,カテナンの合成は盛んに研究されており,最近では,この鋳型合成法を応用し,さらに多くの環状分子が連結した「ポリカテナン」の合成も報告されている。

しかし,ポリカテナンは合成が極めて困難なことに加え,単結晶構造解析が適用できないことから,その構造を直接観察することは不可能だった。もし,分子サイズを超える大きな環構造を効率よく鋳型合成することができれば,特殊な顕微鏡を用いることでポリカテナンの姿を直接捉えられ,構造の証明も容易となる。

今回研究グループは,すでに開発に成功していたナノリング(自発的に環状に集まる分子の集合体)に鋳型合成に似た分子集合体形成法を適用することで,AFM観察が可能なサイズのポリカテナンの合成に成功
した。分子がよく溶ける溶媒と溶けない溶媒を急激に混合する手法(溶媒混合法)でナノリングを作成していたところ,ナノリングの約20%がカテナン構造を自発的に形成していることをAFM観察により見出した。

メカニズムを詳細に解析したところ,すでに形成された環構造の表面が足場となり,新たな環構造が形成されやすいことが明らかになった。このような現象は「二次核形成」と呼ばれ,アルツハイマー病などを引き起こすタンパク質の凝集においても重要な現象だという。

この結果を踏まえ,二次核形成がより起こりやすい溶媒や混合法を見出し,最大22個の環構造からなるポリカテナンの形成に成功した。このポリカテナンの長さは500nmにも及ぶことをAFMによって確認した。

これは,これまで合成することが難しかったメゾスケール(ナノより大きくミクロンより小さいスケール)で複雑な幾何学構造を実現した初めての成果。複雑な合成法に頼らず,自己集合を用いたことで実現した革新的な成果だという。

今後は,さらに複雑な幾何学構造を同様のスケールで構築することも可能になるとするとともに,今回の分子集合体は光や電気に応答する分子で形成されているので,有機エレクトロニクス等などへの応用も期
待できるとしている。

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