農研機構は,晴天時に観測された短波長赤外域の衛星データを複数利用して,代かき時期(取水開始時期)を広域的・効率的に把握する手法を開発した(ニュースリリース)。
近年,営農形態の変化に伴い,一部の地域で用水計画の見直しが求められている。そこで必要となる農業用水の利用実態の調査のうち水田の取水開始時期は,衛星データを用いると広域的に把握できる。
これまでの研究では,その把握にカナダの地球観測衛星RADARSATのは合成開口レーダデータが使われてきた。これは天候に左右されずに取得できる一方多額の経費を要する。そこで,欧州宇宙機関の地球観測衛星Sentinel-2の光学センサーデータに着目。このデータは,晴天時に観測されたものしか利用できないが,水域の判定に有効な短波長赤外バンドのデータが含まれており,無償で利用できる。
農研機構は昨年,この衛星データを用いた水田の取水開始時期の把握手法を開発した。今回,この手法の精度検証を行なうとともに,Sentinel-1の合成開口レーダデータ(無償)も補完的に利用できるように改良を行なった。
昨年に開発した手法は,同じ年の4月~6月の晴天時に観測された複数のSentinel-2衛星データと圃場区画データが必要。このデータが多いほど,取水開始時期を細分化して把握できる。また,農林水産省のGISデータ(無償)を圃場区画データとして利用できる。
Sentinel-2衛星データから観測日に圃場が湛水状態にあったか否かの判定は,短波長赤外バンドと緑バンドのデータから算出される修正正規化水指数(MNDWI)を指標とし,MNDWI画像を二値化した画像に圃場区画データを重ねて行なう。次に,その判定結果から各観測日について,観測日までに取水が開始されたか否かを判定し,最後に各圃場の取水開始時期を把握する。
航空写真画像と照合して精度を検証した結果,判別精度は97%と高い値だった。晴天時の衛星データが十分に得られなかった場合は,Sentinel-1衛星データを用いて湛水有無を判別する。この方法の精度を検証した結果,判別精度は79%とやや低い値だった。しかし,Sentinel-1衛星データは雲の影響を受けないので,補完用データして利用できるという。
この手法は,農業用水の利用実態調査のほか,大雪の影響で代かき期間が緊急的に延長された場合,その検証用にも期待されるとしている。