大阪大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センターの研究グループは,多層膜集光鏡を用いたX線自由電子レーザーのナノ集光実験において,6nmのX線ビームの形成を新手法で実証することに成功した(ニュースリリース)。
X線自由電子レーザー(XFEL)は,それ自体が非常に強いX線パルスであるため,非線形現象の観察やたんぱく質1分子の撮影などに利用されつつある。ビームをより小さく絞ることで新しいサイエンスが拓けるため,世界でその実現が競われている。
日本のXFEL施設SACLAではこれまで,理論上XFELを約6nmまで集光できる多層膜集光鏡を開発してきた。X線を10nm以下に集光したことを実証するためには,集光されたX線の形状を計測しながら多層膜集光鏡を正確に配置する必要がある。
しかし,XFELは非常に強いX線ビームなので従来手法では計測できまなかった。また,極小サイズのビームを計測するためには,様々なモノの振動やビーム位置の変動を1nm以下に抑える必要があり,従来法ではXFELナノビームの正確な形状計測は不可能だった。
そこで研究グループは,コヒーレントX線散乱により生じる干渉模様(スペックル)で,X線ビームの形状を決定する手法を確立した。無秩序に配置した金属ナノ微粒子にコヒーレントなX線を照射すると,その後方に散乱されたX線のスペックルが生じる。スペックルの形は照射されたX線ビームのスポット形に依存するため,スペックルの形状から集光されたX線ビームの形状を決定できる。
また,X線集光鏡の配置に誤差があると,焦点近傍のスポット形状は特徴的に変化するため,スペックルの形状からこの配置誤差も推測し取り除くことができる。従来法との大きな違いは,XFELのワンショット(およそ時間幅10-14秒)で実施できるため,振動やビーム位置の変動を無視できることだという。
実験ではX線集光鏡の配置誤差とスペックル形状の変化の関係を,前もってシミュレーションした。その結果と実験結果は非常に良い一致を示し,集光鏡の配置(特に入射角)を10-6度程度の精度で最適化することに成功した。
この方法でX線集光鏡を理想的な配置へと調整した後,スペックルを計測したところ,約6nm(半値幅)のX線スポットから形成されるスペックルと良い一致を示した。この値は,以前報告した多層膜X線集光鏡の集光性能予測と一致し,集光鏡の精度の高さを証明した。
研究グループは今回のX線ビーム診断技術により,XFELだけでなく放射光施設においても高密度なX線集光ビームを利用できるようになるとしている。