静岡大学,米カリフォルニア大学デービス校の研究グループは,酸素を発生して光合成(酸素発生型光合成)を行なう微生物のシアノバクテリアより,橙色光と緑色光を感知する新しいシアノバクテリオクロムの発見に成功した(ニュースリリース)。
光受容体と呼ばれる色素たんぱく質は,光質(色)や光量(強さ)を感知する分子。この特性を利用して,生きた細胞や組織の中の生体分子の活性や動態を,光を照射して任意に制御または観察できる光スイッチや蛍光プローブの開発が盛んに行なわれている。
シアノバクテリオクロムはシアノバクテリアのみに保存されている光受容体たんぱく質であり,可視光を中心として,短波長の紫外光から長波長の遠赤色光までの幅広い波長領域で光を感知するさまざまな種類が発見されている。
それらは大まかに,短波長型(主に青色光と緑色光を感知)と長波長型(緑色光と赤色光ないし橙色光と遠赤色光を感知)に分類され,前者は短波長型色素であるフィコビオロビリン,後者は長波長型色素であるフィコシアノビリンもしくはビリベルジンを結合する。
中でも,短波長型のシアノバクテリオクロムでは,3つの色調節機構がその分子内で働き,感知する光の波長領域を調節している。さらに,シアノバクテリアの進化の過程でこれらの機能の取捨選択が進み,シアノバクテリオクロムの分子種は多様化している。
研究グループは昨年,哺乳類内在性色素であるビリベルジンを結合することで,橙色光と遠赤色光を感知する長波長型のシアノバクテリオクロムの分子機構を解明するとともに,近赤外光の蛍光プローブの開発に成功し,これらの研究成果を発表した。
シアノバクテリアの進化的系譜を考慮した上で,シアノバクテリオクロムが3つの色調節機構を取捨選択する機能を人工的に改変することができれば,多彩な可視光を利用できる光スイッチや蛍光プローブを開発するための技術基盤となることが期待されていた。
今回,多様なシアノバクテリオクロムの配列と構造と比較することで,青色光,青緑色光,緑色光,黄緑色光,黄色光,橙色光を感知するために重要となる,分子の進化に関わるアミノ酸を同定した。その情報を基にシアノバクテリオクロムの人工的な改変を試みたところ,青色光から橙色光までの可視光を感知する7種類の改変体を作り出すことに成功した。
さらに,これらのたんぱく質と細胞内シグナル誘導たんぱく質を連結した人工酵素を作ったところ,シアノバクテリオクロムのたんぱく質部分で光を感知して,細胞内シグナル誘導たんぱく質部分の活性を制御できる,光スイッチとして働くことを立証した。
この研究成果は,昨年の研究成果と双璧を成すものであり,多彩な光の波長領域で制御・観察可能な光スイッチや蛍光プローブを創出するための分子基盤となるとしている。