慶大,削加工のみで最高性能の光共振器を製作

慶應義塾大学の研究グループは,超精密切削加工のみを用いて微小光学素子を製作し,トップダウンの手法で作製した単結晶微小光共振器として世界最高の光学性能(Q値1.4億)を達成した(ニュースリリース)。

微小光共振器(マイクロ光共振器)は光を微小領域に閉じ込めることで光と物質の相互作用を引き出すことから,光周波数コム発生や高感度センシング,量子光学応用に用いられ,盛んに研究開発が進められている。

高い光閉じ込め性能(Q値)を得るのに適したフッ化物系結晶で作る光共振器では,半導体プロセシングで用いられるような従来のナノ加工技術を用いることができないため,これまでは限られた形状の素子を研磨で作製するしかなかった。

今回,超精密機械加工を用いることで「高Q値」と「微細構造の制御性」という二つの重要な要素を両立する単結晶マイクロ共振器を得ることに成功した。測定した共振特性からは,機械加工で作製されたものとしては世界最高Q値となる約1.4億が得られていることが確認され,構造によって決まる分散からはμmオーダーで狙った通りに構造が作製できたことが確認できた。

マイクロ光共振器の性能を向上させるためには表面散乱を減らす必要があり,表面の研磨工程は必要不可欠だった。ダイヤモンドバイトを用いた機械切削加工は表面が荒く,光が散乱しやすいのでこれまで微小光学素子の作製には適さないとされてきた。

研究グループは,単結晶のもつ結晶異方性や切り込み深さといった加工条件を解析し最適化することによって,切削加工でありながら研磨手法に匹敵する数nmオーダーの表面荒さを実現した。これが今回性能向上につながった大きな要因といえる。

今回,2種類の異なるフッ化物材料(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム)に対して共振器を作製し,そのどちらにおいても高いQ値を得た。

微細構造の制御性は超精密機械加工の大きな利点であり,コンピュータ制御された装置によって事前に設計した通りにマイクロ共振器を削り出す。測定結果は数値シミュレーションと非常によく一致しており,これまで実現されてこなかった「高Q値」と「構造制御性」の両立に初めて成功したことが確認できた。

この研究によるマイクロ共振器作製手法は,高性能なフォトニクス素子を確実に作製できることから,近い将来,産業的にも大きなインパクトを与えると期待されるという。

また今後,従来では作製が難しいとされてきた,より複雑な微細構造を実現することで,微小光共振器にある条件下で連続光を入力して光周波数コムを発生させる,マイクロコム光源の高機能化に飛躍をもたらすとしている。

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