新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem),信州大学,山口大学,東京大学,産業技術総合研究所の研究グループは,紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した(ニュースリリース)。
太陽光エネルギーで水から生成した水素(ソーラー水素)の実用化には,太陽光エネルギーの変換効率を向上させる必要がある。これには,光触媒による水分解において応答する光の波長範囲を広げることと,各波長における量子収率を高めることが必要となる。
代表的な酸化物光触媒であるSrTiO3(Alドープ)にRh/Cr2O3からなる水素生成助触媒とCoOOHからなる酸素生成助触媒を光電着法により担持すると,従来の含浸法に比べて水分解活性が向上し,350~360nmの波長範囲で外部量子収率では96%に達した。この場合,光触媒に吸収された光のほぼ100%を反応に利用できている計算になる。
この光触媒の構造を調べ,その“特別な機能”を明らかにした。用いた半導体光触媒はフラックス法で合成した結晶癖のある微粒子で{100}面,{110}面の結晶面が露出している。このような半導体微粒子において,光で励起された電子と正孔がそれぞれの面に選択的に移動する,異方的電荷移動を効果的に利用した。
光電着法では光により励起された電子が到達する結晶表面に水素生成助触媒が還元的に,正孔が到達する別の結晶表面に酸素生成助触媒が酸化的に,それぞれ析出―担持される。これは,半導体微粒子内で電位勾配があり,その整流作用により励起された電子と正孔を異なる方向に移動させ,空間的に電荷分離できていることを意味するという。
電子と正孔が,光電着法で担持した助触媒により水素および酸素生成反応で速やかに消費されることで再結合がほぼ完全に抑えられ,100%に近い量子収率での水分解反応が達成できた。
光エネルギー変換の最も重要な要素は光励起された電子と正孔を一定の方向に移動させることであり,開発した光触媒はそれをモデル化したもの。植物の光合成でも電荷移動を一方通行にすることで高い量子収率が得られるが再現は現実的ではない。開発した光触媒は簡易構造で人工的に作れるので,高活性光触媒の明確な設計指針となるという。
SrTiO3(Alドープ)はバンドギャップが大きく紫外光しか利用できないため,幅の広い可視領域の光を利用できる光触媒においても量子収率を上限まで高め,人工光合成技術の実用化を目指すとしている。