理化学研究所(理研),東京理科大学,中国 華中科技大学の研究グループは,「高次高調波発生」を用いて,「水の窓」域のアト秒パルスX線を高効率かつ高強度で発生させる手法を確立し,光子エネルギー300eV域においてナノジュール級の出力を持つコヒーレント軟X線光源の開発に成功した(ニュースリリース)。
高次高調波は,レーザー光と同様の高い時間コヒーレンスを生かすことで,アト秒パルスを発生できる。アト秒パルスの時間幅(パルス幅)は,高次高調波の光子エネルギー(波長)により決定されるため,時間幅の短いアト秒パルスを得るためには,高い光子エネルギー(短い波長)を持つ高次高調波を発生させる必要がある。
研究グループは,2008年に中赤外域の超短パルスレーザーと中性ガスの媒質分散による最適位相整合技術を用いて,「水の窓」と呼ばれる軟X線域(光子エネルギー:543~284eV)の高次高調波を高効率で発生する手法の開発に成功している。
しかし,赤外域において高出力・超短パルス励起レーザーの開発が困難だったため,発生効率が向上しても高次高調波の出力エネルギーは,数ピコジュール程度と低いままだった。
さらに,高調波の高効率発生に必要な位相整合条件を満たすには,数気圧のガス媒質の長さを延ばす必要があるため,出力エネルギーを拡大することが工学的に困難だった。
そのため,アト秒のパルス幅を持つ高調波光源のほとんどは,現在,波長が800nm程度の近赤外域の超短パルスレーザーを励起光として,100eV程度の光子エネルギー域で開発されている。
今回,研究グループは,波長可変かつテラワット級のピークパワーを持つ「中赤外フェムト秒レーザー」に,理研独自の高次高調波エネルギースケーリング法を組み合わせることで,「水の窓」であるX線波長域において,高次高調波パルスエネルギーを従来よりも約1,000倍高出力化することに成功した。
この高出力化法は,高い発生効率を保ったままで高調波の出力エネルギーを増加できるという点で優れている。さらに,開発したコヒーレント軟X線光源を用いて,化学状態分析法である吸収端近傍X線吸収端微細構造(NEXAFS)の計測にも成功した。
また,今後媒質ガスの長さを延ばすことで,水の窓域において高調波出力を10nJまで向上できる可能性も示された。この研究成果は、ギガワット級のピーク出力を持つ軟X線アト秒レーザーの開発につながるとしている。