理研ら,過去最小となる磁気渦粒子を発見

理化学研究所(理研),東京大学,科学技術振興機構(JST),物質・材料研究機構,高エネルギー加速器研究機構の研究グループは,既知の化合物では過去最小となる直径1.9nmの磁気スキルミオン(磁性体の中で現れる渦巻き状のスピン構造)を観察することに成功した(ニュースリリース)。

磁気スキルミオンと呼ばれる電子スピンの渦巻き構造は,その粒子性に由来して通常の磁壁より5桁以上小さな閾値電流で駆動でき,超低消費電力な次世代
の情報担体としての応用が期待されている。

しかし従来,スキルミオンを生み出すためには,空間反転対称性の破れた結晶構造の下で生じるジャロシンスキー・守谷相互作用と呼ばれる機構を利用する必要があるとされてきた。

一方で,最近ではこうした条件を満たさない系でもスキルミオンが安定化できることが明らかになりつつあり,2019年には空間反転対称性の保たれた三角格子構造を持つ希土類合金Gd2PdSi3において,スキルミオンの発現が報告されている。

この新しい物質系では,三角格子の特殊な結晶構造に起因した幾何学的フラストレーションと呼ばれる相互作用の競合が,スキルミオンの安定化に重要な役割を果たしていると考えられている。

一方で,既知のスキルミオン発現条件である(1)空間反転対称性の破れ,(2)幾何学的フラストレーションのどちらも存在しない場合に,スキルミオンを安定化できるかどうかについては,これまで明らかになっていなかった。

そこで研究では,新たに空間反転対称性の保たれた正方格子構造を持つ希土類合金GdRu2Si2に着目し,その磁気構造を共鳴X線散乱とローレンツ電子顕微鏡の実験手法を用いて調べた。

この物質の結晶構造は,磁性を担うGdの3価イオンが2次元の正方格子の層を形成し,その間に電気伝導を担うRuとSiの層が位置している。積層方向に磁場をかけていくと,多段階の磁気構造相転移が生じ,特に2テスラ付近の中間磁場領域において,直径1.9nm(既知の単一組成の化合物としては過去最小)のスキルミオンの正方格子状態が実現していることを発見した。

この物質では,幾何学的フラストレーションや空間反転対称性の破れが存在しないことから,従来とは異なる新しい機構によってスキルミオンが安定化していると考えられるという。

最新の理論研究によると,結晶中を自由に動き回る遍歴電子が媒介する多体相互作用を利用することで,普遍的にナノスケールの小さなスキルミオンが実現できることが予想されており,この物質はこうした新しいスキルミオン生成機構を検証するための理想的な物質系になっていることがわかった。

今回の発見は,極小サイズのスキルミオンを生み出すための新しい物質設計指針を与えており,超高密度な情報素子への展開に役立つことが期待されるとしている。

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