豊橋技術科学大学,東京工業大学の研究グループは,膜厚400nmのシートを伸び縮みさせ,発色を変化させる可変カラーシートの開発に成功した(ニュースリリース)。
金属のナノ構造を周期的に配列した構造の表面では,特定の光に対して電子が集団振動する表面プラズモンと呼ばれる効果を発生させることができ,この効果を利用して本来光が通過できない狭いナノ隙間を透過するカラーフィルタを作製することができる。
これを光の異常透過現象と呼び,この原理を利用したカラーフィルタは顔料を利用した従来のカラーフィルタとは異なり,経年劣化の恐れがなく,スマートフォンなどに内蔵されているイメージセンサーを構成するカラーフィルタに利用できると期待されている。
また,最近では,表面プラズモンを生成する光の波長を制御する手法として,伸縮性の材料上に金属ナノ周期構造を形成し,シートの伸縮により構造の周期を変位させて色を変化させるダイナミックカラーチューニングが研究されている。この技術により,形態自由度の高いフレキシブルディスプレーや,構造のひずみを可視化するセンサー等への応用が期待されている。
しかし,これまでの研究報告例では,ナノ構造を支えるシートの膜厚がmmオーダーであったため,マイクロマシン技術による駆動機構と組み合わせることが困難だった。また,支持シートの伸縮駆動に要する駆動力はシートの膜厚に依存するため,厚いシートはマイクロマシンデバイスの駆動電圧が増大する課題がある。
そこで,研究グループは,自動車用タイヤなどに使われているゴム材料の一種であるスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)の膜厚を1μm以下まで薄膜化したエラストマーナノシートを使用して,伸縮性カラーシートを開発した。
ナノ薄膜化したエラストマー材料中に金属ナノ構造を埋め込むことによって,表面プラズモンを利用した光の異常透過を確認した。このナノシートへひずみを与え,シートを透過する光が青,緑,赤へと変化することを確認し,表面プラズモンによる異常透過光の動的制御に成功した。
また,透過ピークの波長の495nmから660nmに及ぶ連続的な変化を実現するとともに,繰り返し伸縮動作が可能なことを実証した。作製したカラーシートを伸縮するための駆動力は,従来の数値よりも2~3桁小さく,一般的なマイクロアクチュエータの発生力で十分に駆動可能となる。
さらに,エラストマーの接着力によりあらゆる場所への貼り付けが可能なため,構造物のひずみの検出・視覚化を可能にし,さらにマイクロマシン技術との一体化により可変カラーフィルタの実現が期待されるとしている。