東京大学と国立遺伝学研究所,の研究グループは,ディープラーニングと定量解析により細胞画像から未知の情報を抽出する技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
細胞周期によって細胞内の組成や構造は大きく変わることが予想されるが,実際に何がどのように変動するのかを顕微鏡画像から網羅的かつ定量的に解析するためのアプローチは限られていた。
この研究では,固定後に抗体等を用いて染色したヒトおよびマウスの培養細胞の蛍光顕微鏡画像を用いて,細胞周期などを判定した。特に研究では,DNAやゴルジ体をそれぞれ単独あるいは組み合わせて染色し,間期の細胞を画像からG1/S期とG2期に分類することを課題とした。
そのために,画像分類に多用される畳み込みニューラルネットワークを使ったディープラーニングにより,細胞画像を細胞周期によって分類するAIツールを開発した。多くの細胞を含む大きな画像から個々の細胞を認識して自動的に切り出し,細胞周期を判定することができる。
AIツールによる画像分類を検証した結果,DNAの染色画像単独,あるいはゴルジ体または微小管プラス端の染色画像との組み合わせにより,90%以上の精度で正しくG1/S期とG2期の細胞を分類することに成功した。
さらにこのとき,AIは画像の中のどこに注目して細胞周期を判定しているのか,Grad-CAM解析により可視化した。その結果,例えばDNAとゴルジ体の組み合わせ画像を用いて学習させたモデルでは,G1/S期だと判定したときにはゴルジ体の輪郭を,G2期だと判定したときは加えて核全体をAIは注目していることが分かった。
このような結果を基に,例えばDNAの染色の強さ(明るさ)とゴルジ体の面積を同時に2次元にプロットしてみると,G1/S期とG2期の細胞をうまく分離できることが分かった。
さらに,AI判定の自信の強さともいえるSoftmax(ニューラルネットワークの出力層に多用される活性化関数の一つ)の値は,両グループの境界部分で小さくなり,すなわちこの2次元プロット上で判別が難しい領域はAIも判定結果にあまり自信がないという結果となった。
これらの解析により,細胞周期の分類など,潜在的に画像に含まれる情報を使って画像を分類したいとき,画像のどこに着目すればいいのかを教えてくれるAIツールを開発した。
また細胞周期にともなうわずかな細胞内の構造の変動など,画像の中に潜在的に含まれていながらも人の目では気づきにくい情報を,AIのサポートにより発掘するアプローチを確立したとしている。