府大ら,キラル結晶からスピン偏極電流を発見

大阪府立大学,分子科学研究所,放送大学,東邦大学の研究グループは,磁性を持たないキラル結晶がスピン偏極電流を生み出すことを世界で初めて見出した(ニュースリリース)。

最近,DNAなどのキラル分子を電子が通り過ぎると,電子のスピンの向きが一方向に揃えられる現象が報告された。キラル分子の構造の左右によってスピンが揃う向きが決まることから,この現象はキラリティ誘起スピン選択性(Chirality-Induced Spin Selectivity:CISS)と呼ばれている。

今回の研究ではこのキラル分子ではなく,「キラルな結晶」に注目した。キラル結晶とは,片巻き方向にねじれたらせん状の原子配列を持つ結晶のことで,結晶の端から端までらせん階段のような原子構造が続く。分子は目に見えないが,結晶は目に見える大きさがあるので扱いやすく,加工のしやすさや安定性など材料としての特性が異なる。

用いたキラル結晶CrNb3S6は,室温と磁場なしの実験条件下において,電気をよく流す金属だが,磁性は示さない。ところが,実験により,キラル結晶CrNb3S6を流れる電流がスピン偏極していることがわかった。

つまり,磁性を持たないキラルな結晶が,その中を流れる電子のスピンの向きを自然に揃える働きを持つことを世界で初めて発見した。

日常生活で見かけるコイルに電流を流すと磁場が生じる。これはマクロな電磁石であり,磁場を生み出す。ここから想像力を働かして実験結果を表現すると,結晶レベルに存在するらせん状の原子構造が,いわばミクロな電磁石として,偏極したスピンを噴出する役割を持つことがわかった。

実験において,キラル結晶が生み出すスピン偏極電流を磁石や磁場を使わずに電気的に検出することに成功した。まず,電圧を加えてスピン偏極電流を生み出し,キラル結晶においてCISS効果と同じ現象が生じることを確認した。

次に,電極からスピン偏極流を注入すると,キラル結晶から電圧が取り出せることを見出した。これはCISS現象の逆効果に対応しており,CISS現象が相反定理を満たしていることを明らかにした。

また,電気的に生み出されるキラル結晶のスピン偏極状態が結晶全体で頑強に保たれており,電流が流れていない部分にまで伝搬することがわかった。これらの特性を用いると,電気的にキラル結晶構造の左右の違いを判別することもできる。

この研究では,当初キラル分子で見出されたスピン偏極現象がキラル固体結晶においても生じることを初めて見出した。分子から結晶までの多様なキラル物質においてスピン偏極現象が普遍的に成立することを意味し,基礎学術的に重要な研究成果だとしている。

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