高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の研究グループは,高エネルギー加速器実験Belle IIによる初めての物理結果を発表した(ニュースリリース)。
今回の成果は,KEKのSuperKEKB電子・陽電子衝突型加速器とBelle II測定器を用いたBelle II実験において,「Z’ボゾン」と呼ばれる通常の物質と暗黒物質をつなぐ役割をする仮説上の新粒子を探索した。現時点ではZ’ボゾンの信号は得られなかったが,その性質に重要な制限をつけることに成功している。
最近の宇宙観測によると,宇宙に存在する物質のうち,知っているのはわずか15%にすぎず,残りの85%は未だ検出されたことのない謎の粒子「暗黒物質」だとされている。
Z’ボゾンは,現在の素粒子理論(標準理論)には組み込まれていない仮説上の粒子だが,暗黒物質と我々の世界を構成している通常物質をつなぐ可能性が高い粒子として理論的に注目されている。このZ’ボゾンは,SuperKEKB加速器による電子と陽電子の衝突で生成され,検出器では測定できない暗黒物質粒子に崩壊する可能性がある。
もしも,Z’ボゾンの存在が確かめられると,素粒子物理学上の未解決問題-暗黒物質の問題だけでなく,これまでの実験で得られている標準理論との食い違い-を解くことが期待できる。
理論に基づいた詳細なシミュレーションによると,Belle II実験では,正負の電荷を持つ一対のミューオン (質量が大きな電子の仲間) の生成数の超過を見ることでZ’ボゾンの明瞭な信号を得ることができる。
現在のデータからは信号は見られなかったが,今後Belle II実験で収集されるより多くのデータを使えば,かすかなZ’ボゾンの信号を炙りだすか,あるいは,その存在を棄却することができると考えられるという。
今回の最初の物理結果は,2018年に行なわれた「フェイズ2」と呼ばれる SuperKEKB加速器の衝突調整運転で得られたごく初期のデータで得られたものだが,このような成果を得ることができた。2019年以降,SuperKEKB加速器とBelle II実験は本格的な運転を開始し,電子と陽電子の衝突性能を着実に改善しながらデータ取得を行なっている。
最終的には今回使用したデータの18万倍ものデータを取得して,暗黒物質の解明やこれまでに知られていない未知粒子の探索に関する多くの研究結果を得る予定だとしている。