金沢大ら,AFMで細菌が放出する微小体を可視化

金沢大学,筑波大学の研究グループは,細菌が環境中に放出する微小な袋状の膜構造体(メンブレンベシクル: MV)の物理的性質を,原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調べる方法を開発した(ニュースリリース)。

近年の国内外の研究で,MVは,細菌間の情報伝達やタンパク質の輸送,遺伝子の水平伝播に関与し,抗生物質やファージへの「おとり」として働いて細菌の生存を助けるなど,細菌の生存戦略に深く関わる重要な因子であることが報告されている。

しかし,細菌が放出するMVの大きさは直径20~400nm程度と極めて小さいだけでなく,リン脂質膜という非常に柔らかくもろい構造でつくられていることから,MV粒子一つ一つの性質を個別に調べる方法は開発されておらず,MVの詳しい実態はこれまで明らかにされていなかった。

研究グループは,原子間力顕微鏡の位相イメージングを用いて,MV1粒子の物理的な性質を測定する手法を開発した。原子間力顕微鏡の位相イメージングは,表面化学やマテリアルサイエンスの分野で,主に無機物の物性測定に用いられる。

この研究では,その手法を生体試料の観察に応用した。しかし,従来の原子間力顕微鏡は,試料に与える力が強く,柔らかく壊れやすいMVを観察することは難しい。

そこで,この研究では,タンパク質分子や細胞などの壊れやすい生体物質を生理的な溶液中で観察することに特化した高速原子間力顕微鏡(金沢大学が開発)を用いることで,nmサイズの小ささかつ柔らかく壊れやすいMV1粒子の物理的性質の測定に成功した。

この高速原子間力顕微鏡の位相イメージングにより,3種類のグラム陰性細菌と1種類のグラム陽性細菌が放出したMVの物性分布を調べて比較した。その結果,これらの細菌は,物性の異なる複数のタイプのMVを放出することを初めて実験的に確かめることができた。

さらに,細菌が環境中に放つMVの物理的特性には細菌種ごとに特異性があることが明らかになった。このようなMVの不均一性は,MVの形状や構造ではなく,MVを構成する物質組成に起因することが示唆された。この研究により,MVの性質に多様性があることが初めて示された。

この研究で開発された1粒子の膜小胞の物性解析法は,多様な細胞外膜小胞の研究への応用が期待できるとしている。

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