兵庫医科大学の研究グループは,画像処理と人工知能(AI)を用いて,眼底写真により脈絡膜の厚さを推定することが可能と証明した(ニュースリリース)。
脈絡膜厚さは,中心性漿液性脈絡網膜症(CSC),加齢黄斑変性,近視性網脈絡膜疾患など,さまざまな眼底疾患の病態に関連している。近年,光干渉断層法(OCT)の進化に伴い,脈絡膜の生理学的,病理学的変化に関連した多くの研究が報告されている。
脈絡膜は加齢とともに,また,近視が強いほど薄くなることが知られているが,脈絡膜が薄くなると,豹紋状眼底を呈する。つまり,脈絡膜血管が眼底写真において観察しやすくなる。
逆に,Vogt小柳原田病(VKH)のように脈絡膜が厚くなると,脈絡膜血管はぼやけて観察しづらくなる。このことを利用して,眼底画像における脈絡膜血管の透見度から脈絡膜厚が推定できるのではないかと考えたという。
研究の対象は,正常眼200眼,CSC眼200面で,画像処理で眼底写真を処理する方法と人工知能を用いる2法を用いた。まず画像処理の手法として大きな流れはまず,カラー眼底写真から,網膜血管消去画像を作成,脈絡膜血管を描出し,視神経乳頭を削除,それによって得られた画像から特徴量(CVAI)を算出した。特徴量と脈絡膜厚の実測値の相関を検討した。
AIについてはK-Fold法を用いた。すべての画像を5つのグループに分け,4つのグループが拡張し,モデルのトレーニングに使用して,1つのグループを検証データとして使用した。このプロセスを5回繰り返した。
またVisual Geometry Group—16(VGG-16)モデルという畳み込みニューラルネットワークシステムを使用し,眼底写真から直接脈絡膜厚の推測を行なった。
CVAIと脈絡膜厚の相関は,正常眼において-0.60,CSC眼では-0.46となった。AIを用いた方法では,脈絡膜厚の推測値と実測値の相関が,正常眼においては0.68,CSC眼においては0.48となった。
画像処理を用いた方法でも,AIを用いた方法でも,眼底写真からの脈絡膜厚の推測は可能となった。しかし,今回は対象疾患がCSCと正常眼に限られていた。VKHにおいては寛解期において,一部の患者は夕焼け状眼底というメラニン色素が抜けた,オレンジ色の眼底を示すことがある。
この場合,メラニンがない分,脈絡膜血管の透過性が亢進してしまい,実際の脈絡膜厚との相関が得られにくいことが考えられるという。今後はそれについての検討と,色調補正などにより問題解決が可能かどうか検討していくとしている。