名古屋大学,南カリフォルニア大学,京都大学,理化学研究所(理研),慶應義塾大学の研究グループは,概日時計の周期を延長させる新たな化合物を発見し,その作用メカニズムの解明に成功した(ニュースリリース)。
概日時計は睡眠・覚醒などのさまざまな生理現象に見られる1日周期のリズムを支配しており,その機能が乱れると睡眠障害やメタボリックシンドロームなどにも影響を及ぼすことが指摘されている。そのため,概日時計の機能を調節する化合物は,生物が1日の時間を測る仕組みの理解だけでなく,関連する疾患の治療に向けた起点にもなる。
今回,研究グループは概日リズムの周期を延長させる新たな化合物KL101およびTH301の作用メカニズムを解析した。その結果,KL101は時計タンパク質のCRY1を,TH301はCRY1の類似タンパク質であるCRY2をそれぞれ選択的に安定化して活性化することを見出した。
研究グループは以前,CRY1とCRY2の両方に作用する化合物KL001を報告したが,CRY1とCRY2は非常によく似ているため,それぞれに対して選択性を示す化合物の開発は非常に困難であると考えられてきた。
これらの化合物がどのように働くのかを知るために,研究グループはX線結晶構造解析によって,CRY1およびCRY2と化合物の相互作用を原子レベルで解明した。その結果,化合物と相互作用する部位はCRY1とCRY2の間でほぼ同じであり,なぜ作用の選択性が生まれるのかを説明することができなかった。
CRY1とCRY2の機能解析を進めた結果,化合物が結合するポケットの外に存在し,一定の構造をとらないCRY1とCRY2の部位が化合物の選択的な作用に必要であることを明らかにした。これは,作用の選択性を化合物の結合ポケットが決める,という定説とは異なる予想外のメカニズムとなる。
研究グループは更に,CRY1およびCRY2と代謝疾患の関係に注目して研究を進めた。その結果,CRY1とCRY2の両方を失ったマウスにおいて,褐色脂肪細胞の分化が起こりにくいことを見出した。
そこで,CRY1とCRY2のそれぞれを活性化するKL101とTH301の効果を解析したところ,どちらの化合物も褐色脂肪細胞の分化を促進することを発見した。これらの結果は,CRY1とCRY2が概日時計の機能と褐色脂肪細胞の分化を結ぶ重要な因子であることを示しているという。
今回発見したKL101とTH301のように,CRY1とCRY2をそれぞれ選択的に調節する化合物は,有用な研究ツールとして時計タンパク質の機能解明に役立つとしている。