首都大学東京,理化学研究所(理研),横浜国立大学,名古屋市立大学,信州大学の研究グループは,チオフェン分子を環状に連結した6T4A-4Buリング型分子に酸化処理を施すことで,世界で前例のない二重ドーナツ型構造の巨大超分子を作ることに成功した(ニュースリリース)。
ナノサイズの分子機能材料を用いるナノサイエンスは,21世紀において鍵となる新原理と新技術の探索を続けている。しかし,分子機能材料の可能性を最大限に引き出すのは,一般に用いられている化学物質を組み合わせるだけでは不十分で,従来とは異なる電子状態をもつ分子の物性・機能の研究が必要とされている。この研究では,非常に大きな分子が作る二重ドーナツ型巨大超分子を用いることによって,磁気に応答する新しい単分子素子の開発を目指した。
チオフェンは,ベンゼンと同様に自然界にも存在する環状分子で,チオフェンを直線状に連結した導電性の高分子化合物(オリゴチオフェン,ポリチオフェン)は,発光ダイオードや有機EL,電界効果トランジスタ,太陽電池など,幅広い用途に応用できる。
このようなチオフェンの機能を更に拡張するために,今回6個のチオフェンを環状に連結した6T4A-4Buリング型分子を合成し,酸化処理を施したときの分子特性を詳しく調べた。
酸化処理により分子内の電子が1個だけ不足したラジカルカチオンの状態にすることで,新しい磁気的・電気的な特性が現れることを期待した。光吸収や電子スピン共鳴,磁気円偏光二色性などの各種測定の結果,6T4A-4Buのラジカルカチオンは溶液中で2個の分子が組み合わさったダイマーを形成することが分かった。
溶液から結晶を作り,大型放射光施設SPring-8でのX線回折により結晶構造を調べた結果,6T4A-4Buのラジカルカチオンは結晶中で二重ドーナツ型の巨大超分子を形成することが分かった。
分子リング内部に取り込まれた小分子(CH2Cl2)の磁界中の挙動を核磁気共鳴で調べたところ,通常よりも高い磁界に対して共鳴吸収を示した。
この結果を理論計算で解析することで,6T4A-4Buのラジカルカチオンは,分子内の70個もの共役π電子により,磁界中で6個のチオフェンでできた分子リングに沿って回転するように電気が流れる環電流特性を示すことを明らかにした。この特性は,6T4A-4Buの二重ドーナツ型分子が1nm程度の大きさの超分子コイルとして働くことを意味する。
この研究の成果は,磁気に応答する単分子素子として,各種の応用展開が期待できるとしている。