東北大学,首都大学東京,高島製作所の研究グループは,X線イメージングを用いて硬さの分布を可視化することに世界ではじめて成功した(ニュースリリース)。
腫瘍,肝硬変,動脈硬化など,多くの病変部位は正常時組織よりも硬くなり,硬さを調べる方法として,医者が患者の体表に手で触れて診断する触診は古くから知られていて,現在でも乳がん検査などで用いられている。
しかし,体表の奥深くの病変の硬さを非侵襲で調べる方法は比較的最近までなかった。1990年代に入って,超音波診断,MRIを利用して硬さを画像化する方法が提案され,現在では肝硬変など,特定の病変に対する診断が保険適用の対象になっている。ところが両者とも,一般的な医療診断機器での解像度はmmオーダーに留まっており,高精細な硬さ分布の可視化は困難だった。
研究グループは,レントゲン撮像に代表されるX線イメージング技術を用いて,50μm程度の解像度で硬さの分布を可視化する技術の原理検証に世界ではじめて成功した。ここでは,試料内を音響波が伝播する様子から硬さを求める動的エラストグラフィという方法に着目した。
まず,試料に一定周波数の音響波を与え,音響波の周波数と同期させてX線イメージングを行なうことにより,音響波の伝播に伴う試料内のわずかな変位の分布(変位マップ)を求めた。
試料としてはゼリー食品と同程度の硬さの粘弾性体であるポリアクリルアミドゲルを用いた。試料内の硬さがほぼ均一な場合と,試料内にわずかに硬い領域が内包されている場合の音響波の伝播の様子は,後者では硬さが異なる領域で音響波の伝播速度がわずかに変化する。このような変位マップから音響波の局所的な伝播速度を求め,硬さマップを50μm程度の解像度で可視化することに世界ではじめて成功した。
硬さマップは実験室レベルの強度の弱いX線源により取得されたもので,今回の成果によって三次元的な硬さマップを求めることも原理的に可能であることが示された。
画質(S/N比,アーティファクト除去)については今後さらに改善される余地があり,既存のCTスキャナなどに安価に組み込むことも可能であることから,病変部位を高精度で特定する強力な医療診断ツールに発展するとしている。