東京大学の研究グループは,柔らかいセンサーとしては世界最高感度の音響センサーを開発した(ニュースリリース)。
心音などは,信号が非常に小さく,10~250Hz以下の低周波領域が主な信号であるため,低周波数領域におけるフレキシブルな音響センサーの高感度化が重要となっている。
心臓などに障害がある場合,心筋収縮力による血流速度の変化や,弁口の不完全な閉鎖により,周波数と振幅にわずかな変化が生じる。そのため,心音を長期的にモニタリングすることは疾患などの早期発見につながるために重要性が増している。
これまでに,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノファイバーと穴がある基板を組み合わせた構造や,非常に微細な穴を空けた紙を基板に用いたポーラス構造などにより,低周波領域において高感度化が報告されていた。また,PVDFのシートをゴム基板で挟んだ構造を用いることで,皮膚に貼り付けて心拍を計測することが可能なセンサーが報告されていた。
ところが,柔らかい薄型のセンサーでは,感度を高めるために立体的な構造にすることや,センサーの薄さを維持しながら微細な穴をあける加工が困難だったため,微小な心音の信号を測定するための,低周波領域において高感度を有しかつ長期的に計測できるような柔らかい音響センサーはこれまでに報告がなかった。さらに,音響センサーが薄くなると,同じ入力信号に対してよりセンサーの変形が大きくなるため,電気的な機能を維持する耐久性も課題だった。
研究グループは,電界紡糸法によって形成したナノファイバーシートを積層し,非常に柔らかいナノメッシュ音響センサーを開発した。ナノメッシュセンサーは,2層の電極シートで圧電材料であるPVDFのナノファイバーシートを挟むことで形成されている。
このセンサーは,ナノファイバー構造を用いることで,500Hz以下の低周波数領域において,10000mV Pa-1を超える世界最高感度と柔らかさを同時に実現している。これは,非常に柔らかいナノファイバー構造のPVDF層が,上下に動くことで電極シートとPVDF層が接触し,信号が発生するため。
このナノメッシュ音響センサーを皮膚に直接貼りつけることで,心音の計測が可能になる。さらに,柔らかいセンサーは皮膚に密着するため,10時間連続して心音を安定に計測することに成功した。
今回開発した音響センサーは,ナノファイバーを用いているため,通気性があり,柔らかいために,長期的に皮膚に貼り付けることができるとしている。