東大ら,鉄系超伝導体において量子液晶状態実現

東京大学,産業技術総合研究所,独カールスルーエ工科大学,米ミネソタ大学の研究グループは,鉄系超伝導体において新たな量子液晶状態が実現できることを見出した(ニュースリリース)。

「量子液晶」とは,電子の集団が量子効果によりある方向に揃おうとする状態。これまでは,一般的な液晶と異なり,その方向が特定の結晶の向きに限られていた。

研究グループは,鉄系高温超伝導体であるBa1-xRbxFe2As2という物質で,電子の集団が結晶格子の向きに関係なく,どの向きにも揃うことができる新しい量子液晶状態が実現可能であることを発見した。

BaFe2As2(x=0)では低温で量子液晶状態を示すことが以前から知られており,その向きは隣接する2つのFe原子を結ぶ方向となる。これは試料を伸び縮みさせた際に電気抵抗がどのくらい変化するかを測定することによって調べることができる。

BaFe2As2の結晶構造の場合,量子液晶状態で考えられる向きは隣接する2つのFe原子を結ぶ方向(Fe-Fe方向)か,それと45度異なるFe原子とAs原子を結ぶ方向(Fe-As方向)の2つ可能性がある。量子液晶状態の向きの方向に試料を伸び縮みさせると,電子の集団がその方向に配向しようとしているために電気抵抗が大きく変化する。

BaFe2As2はFe-Fe方向に伸び縮みさせた方がFe-As方向の場合よりも電気抵抗が大きく変化するのに対し,今回の研究でRbFe2As2(x=1)においてはその逆で,Fe-As方向の方が大きいことがわかった。これはRbFe2As2においては量子液晶状態の向きがBaFe2As2と45度異なり,Fe-As方向であることが新たにわかった。

研究グループは,BaFe2As2のBaをRbに一部置換することにより量子液晶状態の向きが変わることに注目し,それらの混晶系であるBa1-xRbxFe2As2を新しく合成して向きの変化を詳しく調べた。

その結果,あるBaとRbの比でできた試料ではFe-Fe方向とFe-As方向のどちらの向きにも揃いやすくなっていることから,これは面内のどの方向にも向きが揃おうとする一般的な液晶に非常に似た量子液晶状態であることがわかった。

この結果は,これまで報告されていた量子液晶状態よりもさらに一般的な液晶に似た新しいタイプの量子液晶状態を実現することが可能であることを示すという。

量子液晶状態では,外場により電子状態そのものを変化させることができるため高速かつ巨大な応答が期待されるが,この新しい量子液晶状態はその向きを自由に制御できるため,これを用いて物質中の素励起の流れ(量子波あるいは量子流)の制御が可能になれば,量子情報の伝達方向制御など,新しい量子技術の開拓へつながるとしている。

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