量研ら,高強度レーザーによる電子の振る舞い解明

量子科学技術研究開発機構(量研),科学技術振興機構(JST),大阪大学,九州大学の研究グループは,強いレーザー光を数ミクロン程度に小さく集光して高い強度で物質にあてたときに,電子の独特な振る舞いが発生するメカニズムを解明した(ニュースリリース)。

強いレーザー光を非常に薄い物質に集光し照射することで電子やイオンを発生し,高エネルギーまで加速する「レーザー加速」と呼ばれる現象を起こすことができる。レーザー加速は,従来の線形加速器と比べて100万倍以上高い加速電場を生成できることから,重粒子線がん治療装置などで利用されている加速器の飛躍的な小型化につながる技術として世界各国で競争して研究開発が行なわれている。

これまでに,レーザー光の強度を高くするほど,電子やイオンは高いエネルギーに加速されることが理論的に示されているが,実験的にはレーザー装置の安定性や繰り返しの性能が問題となり,十分に調べられてはいなかった。

今回,研究グループは,高安定・高繰り返しの高強度レーザー装置「J-KAREN」を用いて,レーザー光の強度及び集光サイズと加速される電子のエネルギーの関係を世界で初めて系統的に調べた。「J-KAREN」のパワー500TW,かつ約25兆分の1秒という極短時間幅を持つパルスを約1μmの空間に絞り込むことで,約5×1021W/cm2という強烈な電磁場を作り出すことができる。

その結果,レーザー光を数ミクロン程度まで集光すると,これまで信じられていた理論モデルに従わず,電子のエネルギーが頭打ちになることを発見した。

スーパーコンピューターを用いたシミュレーション解析により,集光サイズが小さくなると,光の強度が高まり電子が急激に加速されるものの,当初の理論で予測される最大エネルギーに達する前に加速が起こる領域(光電磁場が存在する領域)から外れてしまうという,特有の現象が起こることを明らかにした。

また,この効果を組み込んだ新たな理論モデルを提唱した。今回得られた知見は,より高い加速エネルギーを得るためには,適切な集光サイズが必要で,従来想定されていたよりも大きなレーザーパワーが必要であることを示しており,世界各国で競争が激化しているレーザー加速器開発にとって重要な指標となるという。

今後,研究グループが提唱した理論モデルを用いてレーザー加速器の設計を行なうことで,量研が推進する小型重粒子線がん治療装置(量子メス)の開発に大きく寄与することが期待されるとしている。

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