東北大学,中国・清華大学の研究グループは,高い熱電変換効率をもつ単結晶の熱電変換材料を開発する手法として,単結晶に点欠陥を導入することを提案し,その基盤技術を確立した(ニュースリリース)。
熱電変換材料は熱エネルギーから発電できる。温度差をつけたときの起電力(ゼーベック係数)と電気伝導率が高く,熱伝導率が低いほど熱電変換効率が高くなる。単結晶と多結晶を比べると,単結晶の方が電気伝導率は高いが,熱伝導率も高いことから,従来は,多結晶の熱電変換材料が開発されてきた。
この研究では,単結晶のマグネシウム錫化合物を作製して,空孔欠陥量を制御することにした。空孔欠陥を導入するために必要なエネルギーを増減すれば,空孔欠陥量を制御することができる。
そのために,単結晶のマグネシウム錫化合物を作製するときのアルゴン圧力を0.6気圧から1.6気圧まで増加したところ,マグネシウムの空孔欠陥量を5.6%から12%の範囲で調整できることがわかった。
また,微細組織観察から,単結晶のマグネシウム錫化合物には,単結晶領域および空孔欠陥が含まれている領域(空孔欠陥領域)が混在しており,単結晶領域と空孔欠陥領域の界面は半整合界面であることがわかった。
次に,単結晶のマグネシウム錫化合物のゼーベック係数,電気伝導率,熱伝導率と空孔欠陥量の関係を調べた。空孔欠陥量の増加によって,わずかにゼーベック係数と電気伝導率が低くなるとともに,顕著に熱伝導率が低くなることがわかった。
これは,単結晶領域と空孔欠陥領域の界面が半整合界面であり,界面が電気伝導と熱伝導を妨げる効果は小さいのに対し,空孔欠陥自体が熱伝導率を低くするのに有効に働いたことを示している。特に,熱伝導率は,多結晶のマグネシウム錫化合物の報告値よりも低いことから,単結晶のマグネシウム錫化合物は熱電変換材料として有望であるという。
単結晶のマグネシウム錫化合物の熱伝導率を低くすることができたので,現在は電気伝導率をさらに高くすることに取り組んでいるという。これは,マグネシウムや錫を別の元素で部分的に置き換えることで可能となる。
低い熱伝導率を達成できる空孔欠陥量を維持しつつ,電気伝導率を高くすることができる元素を探索し,マグネシウム錫化合物の熱電変換効率をさらに高くすることができれば,マグネシウム錫化合物を使ったエネルギーハーベスティングが現実のものになるとしている。