東大ら,重力波観測で物質の起源に新知見

米カリフォルニア大学,東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)など,米国,日本,ドイツ,カナダからなる研究グループは,宇宙初期の相転移の際に出来たとされる「宇宙ひも」から生じる重力波を観測することで,相転移がニュートリノに物質と反物質の入れ替えを可能とさせたとする従来の理論を実証できることを指摘した(ニュースリリース)。

物質と反物質が同量であれば対消滅でいずれも消えてしまったはずだが,反物質のみが無くなり物質だけが残ったという状況はビッグバン理論と矛盾する。宇宙の初期に,少量の反物質が物質に変わり物質と反物質の間に10億分の1程度の不均衡が生じたことで,物質優勢の今の宇宙になったと考えられているが,その発生は謎だった。

物質と反物質は反対の電荷を持っているため,入れ替わることができない。しかし,ニュートリノは電気的に中性な粒子であり,反物質から物質の入れ替えが可能な最も有力な候補とされている。

多くの研究者が支持する理論は,宇宙初期の相転移が,ニュートリノに物質と反物質の入れ替えを可能とさせたとする理論で,Kavli IPMUが提唱したレプトジェネシス機構と呼ばれるもの。

物質の振る舞いは,臨界温度と呼ばれる特定の温度で変化する。ある特定の金属を低温に冷却していくと,相転移が起き電気抵抗が完全に失われて超伝導体になる。超伝導体のように,初期宇宙の相転移では,「宇宙ひも」と呼ばれる磁場の非常に細いチューブが作り出された可能性がある。

研究グループは,宇宙初期の相転移で出来た宇宙ひもが,自ら小さくなろうとする際に重力波が生じると考えたという。そして,この重力波は,将来の宇宙重力波望遠鏡によって検出できる可能性があると指摘した。

重力は宇宙初めから隅々まで伝搬しているため,重力波による近年の発見は,宇宙の歴史を更に遡る新たな機会をもたらした。初期宇宙が,現在の宇宙で最も熱い場所より1兆倍から1000兆倍も熱かった場合には,ニュートリノは物質を生き残らせるのに十分な振る舞いをした可能性がある。

さらに,宇宙ひもからの重力波は,ブラックホールの合体といった天体物理学的に生じる重力波とは明らかに異なるスペクトルを持つ。そのため,重力波源が確かに宇宙ひもであるとはっきり確信することは十分可能となるという。

研究グループが示すように,相転移で生じた宇宙ひもからの重力波が検出されれば,相転移がニュートリノに物質と反物質の入れ替えを可能とさせたとするレプトジェネシス機構の実証に繋がり,この宇宙が物質優勢になった謎の解明の一歩になるとしている。

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