千葉大学の研究グループは,光触媒を両極に用いる高電圧型太陽電池の性能を向上させる鍵が光触媒結晶の分極率と触媒活性にあることを明らかにした(ニュースリリース)。
持続可能な社会を実現するためには,化石燃料に依存しない再生可能エネルギーへのシフトが求められている。中でも,太陽光を電力に変換する太陽電池や水素等の化学エネルギーを電力に変換する燃料電池は発電時にCO2を発生しない発電方法として重要で,太陽電池と燃料電池の研究・開発が広範に行なわれている。
しかし,既存の電池では単セルでの起電力1V以下がほとんどであり,実用するには直列に重ね合わせる必要があった。そこで光触媒式太陽電池によって高効率で低価格な太陽電池を実現する研究が進められているものの,光触媒式太陽電池の場合,光電極の電気的,化学的特性の複雑なバランスに依存するため,性能を向上させる因子が明らかになっていなかった。
この研究では,光触媒式太陽電池の性能を向上させる因子を特定するために,光触媒結晶の形状や薄膜形成法に着目した。光触媒には酸化チタン結晶(TiO2)を用いて,負極上に種々の形状(紡錘状,立方体状,菱形状)およびサイズを制御して合成した触媒結晶を配置した。また,薄膜形成法も制御して複数の方法(キャスト法,スライド法,粉砕&スライド法,粉砕&機械成膜法)を調べた。
さらに,形成した膜のかさ密度を電子顕微鏡を使って計測し,紫外可視蛍光発光,交流および直流(AC/DC)印加時の膜インピーダンス,18O2ガスと TiO2膜表面の酸素原子との交換反応速度を測定し,太陽電池の発電特性を比較検討した。
その結果,サイズを揃えて合成した立方体状,菱形状TiO2はいずれも,電子の通しやすさを示す分極率が低いため,電子を通しにくいことが分かった。一方,サイズが不揃いのTiO2あるいは紡錘状に合成したTiO2は分極率が高く,かつ光酸化反応の起こりやすさ(触媒活性)を示す酸素解離反応が遅いため,太陽電池の出力を85.2μWcm2,起電力を1.94Vまで高めることに成功した。
研究グループでは,これまでにTiO2に有機色素を添加することで起電力を2.11Vまで高めることにも成功している。光触媒式太陽電池では,光触媒が紫外光を吸収するのと,有機色素が可視光を吸収する電子エネルギーの変化がつながって起きるため,他の太陽電池と異なり起電力が高くなっている。
今後は,起電力だけでなく,出力が生物電池以上のレベルとなる光触媒式太陽電池の実現を目指すとしている。