総合研究大学院大学(総研大)の研究グループは,アサギマダラの視覚を含む神経メカニズムの研究において,視覚器である複眼にあって光の信号をキャッチする細胞(視細胞)の構造と性質を詳しく調べ,複眼の構造と感度を明らかにした(ニュースリリース)。
アサギマダラはチョウの一種で,⽇本と東南アジアの間を,海を越えて渡る。多くの市⺠が参加した⼤規模な調査の結果,最⻑2500kmもの⻑旅が確認されている。アサギマダラはときに花の蜜を吸いながら渡りをするので,おそらく視覚が重要と考えられているが,視覚を含む神経メカニズムはほとんど調べられていない。
そこで研究グループは,アサギマダラの渡りの神経メカニズムを解明する研究の⼀環として,視覚器である複眼の構造とその中に含まれる光受容細胞の機能を調べた。
まず研究グループは,複眼の構造を光学顕微鏡と電⼦顕微鏡で調べた。アサギマダラの複眼は,およそ8000個の個眼が集まってできている。ひとつの個眼には9 個の視細胞が含まれる。
視細胞は個眼の中⼼に向かって沢⼭の細い突起(微絨⽑)を伸ばし,感桿分体という⼩さな受光部をつくる。感桿分体は個眼中央で集まって,感桿という構造を作る。感桿は9個の視細胞が共同でつくる,個眼の受光部となる。
ひとつひとつの視細胞にガラス管で作った細い電極を刺し,さまざまな波⻑(⾊),強度(明るさ),振動⾯⾓度(偏光の場合)の光をあてて,視細胞の反応を解析した。
その結果,視細胞は⾊に対する感度で,紫外線細胞,⻘細胞,緑細胞の⼤きく3種類に分けることができた。これはミツバチをはじめとする多くの昆⾍に共通する性質となる。
しかしアサギマダラの場合,緑細胞が感度の幅によってさらに3種類に分かれたので,複眼に含まれる視細胞は合わせて5種類という結果になった。紫外線細胞と⻘細胞は垂直な⾯で振動する偏光に⾼い感度を⽰すのに対し,3種類の緑細胞は⽔平や斜めの偏光によく反応した。偏光に対する反応性は,感桿分体をつくる微絨⽑の配列⽅向と⼀致していた。
チョウ類の視細胞は⼀般に⾊感度の種類が多く,⼈間よりすぐれた⾊覚をもつとされるナミアゲハでは8種類,アオスジアゲハでは15種類という結果も出ている。その中でアサギマダラの複眼は⽐較的シンプルとなる。
⻑距離の渡りには,視覚だけでなく,磁気感覚,⽣物時計,季節感覚など,さまざまな環境要因が影響しているという。偏光の役割をはじめ,実験室の中でアサギマダラの感覚や⾏動をくわしく解析することで,野外での⾏動の謎をひとつひとつ解いてゆくことができるとしている。