日本原子力研究開発機構(JAEA),東京電力ホールディングス(東京電力HD),日本放射線エンジニアリング(JREC)の研究グループは,福島第一原子力発電所(1F)構内におけるファイバー型モニターを用いた排水路の放射線モニターを開発した(ニュースリリース)。
1Fの廃炉現場では,ストロンチウム(90Sr)を多く含む汚染水の漏えいの可能性がある場合,排水路の水をサンプリング及び分析し,漏えいの有無を確認している。
しかし,サンプリングから分析までは簡易的な評価であっても数時間程度の時間を要しており,これをリアルタイムで早期に検出することにより,汚染水の漏えい有無を迅速に判断することが可能になると考えられている。90Srの検出には,セシウム(134Cs+137Cs)由来のγ線と区別して,β線のみを効率よく検出する必要がある。
しかし,水中での進む距離(飛程)の短いβ線を直接測定することは難しく,簡便なβ線のリアルタイムのモニタリング技術の確立が求められていた。そこで,JAEAは環境中の除染前後の放射線分布の測定に利用してきたファイバー型モニターの適用を検討してきた。
今回,JAEAとJRECは,既存の放射線測定技術を応用し,β線とγ線を区別して,リアルタイムに測定できるファイバー型モニターを開発した。このモニターでは,ファイバーの全長の半分をステンレス管で覆うことで,β線のみを遮へいしている。
このファイバーを使用することで,γ線のみを検出できる部位と従来のβ線+γ線を検出する部位の差分から,β線のみを検出できた。開発したモニターを東京電力HDと共同で1Fの現場にて検証した結果,施設内におけるフォールアウト起源の放射性セシウム(134Cs+137Cs)の影響を受けることなく,水中のβ線核種の90Srを検出できることを確認できた。
この開発により,検出が難しかった汚染水中の90Srを現場でリアルタイムにモニタリングすることが可能となり,排水路に汚染水漏えいの可能性がある場合には,排水路の現場でサンプリング・分析を行なうことなく,執務エリアに設置したPC等で排水中の90Sr濃度の確認が可能となったため,汚染水の漏えい有無の判断の迅速化,作業員の負荷軽減につながる事が期待できる。
また,この技術は他の原子力発電所へも適用可能であり,原子力発電所から出る排水のモニターとしても適用可能だという。JAEAは,このモニター設置後も機器の不具合対応や新たな課題が出た場合の対策など,できる限りのサポートを実施していく予定としている。