東京大学の研究グループは,多段階調節機能を単一の材料で達成するための分子設計を提案し,二段階の自動調整システムを持つ自律型機能性ポリマーの開発に成功した(ニュースリリース)。
生物は受ける刺激が強くなると身体が反応する応答も強くなる。しかし同時に,弱すぎる刺激に対しては全く応答せず,強すぎる刺激に対しては過剰応答を防ぐ調節システムが備わっている。
このような多段階の自動調節システムは自然界で数多くみられ,安定的な生命活動を維持する上で重要な役割を担っている。一方でこのような自然界の自動調節は,複数の物質が関わり合う複雑なシステムに基づくことが知られており,人工的な機能性材料にこのようなシステムを組み込むことは困難だった。
研究グループは今回,このような多段階調節機能を単一の材料で達成するための新しい分子設計を提案し,実証した。まず金属元素を含む共役ポリマーに着目し,一酸化炭素濃度に応答して発光する材料において,低濃度・中濃度・高濃度という3つの領域を識別し,自律的に応答性が変化するシステムを実現した。
この材料において,ポリマー中の金属は一酸化炭素ガスを認識してポリマーを切断する。しかし一酸化炭素ガスに一定時間暴露した結果生じる材料の発光強度を調査したところ,ガス濃度が低濃度・中濃度・高濃度という3つの濃度領域で異なる応答性を示し,2種類の自動調節システムを有することが明らかになった。
このシステムのカギとなったのは,ポリマーが構成要素であるモノマーに分解することで初めて発光する仕組みを設けたことと,切断反応速度の濃度依存性が一酸化炭素濃度によって切り替わる金属を用いたことにある。
これによって,低濃度ではポリマーの切断は生じるが,発光しないオリゴマーが主に生成するため,ポリマーの切断量に比べてモノマーの発生量は少なくなる。今回この両者のずれを用いることで,一酸化炭素が存在しても発光を示さない低濃度領域を生み出すことに成功した。
さらに一酸化炭素ガス濃度を高めると,ガス濃度の増加に伴って発光強度が強くなる通常の比例関係を示す領域(中濃度領域)がもたらされた。
一方でさらに高い濃度領域では,一酸化炭素と反応できる金属の供給が追い付かなくなり,濃度に依らず一定の発光強度を示すという二段階目の調節システムが実現できた(高濃度領域)。さらに,これら二段階の濃度領域を任意に設定可能であることも示した。
このような自律型システムは,センサー・コンピュータ・物質生産などと組み合わせることによって,周りの状況に応じて材料が自動的に応答・生産性を変化し得るため,自律思考型の機能性材料としてより豊かな社会システムの創成につながるとしている。