徳島大,最小の蛍光標識色素を開発

徳島大学の研究グループは,独自に開発してきた新規蛍光分子1,3a,6a-Triazapentalene(TAP)の最小化に試み,チオール基のみと選択的に反応し蛍光を大幅に増強させる最小の蛍光標識基TAP-VK1を開発した(ニュースリリース)。

蛍光標識色素は,生体内で様々な作用を引き起こす生物活性分子(薬,毒,ホルモンなど)の生体内での挙動を明らかにするために有効となる。すなわち,蛍光標識基を生物活性分子に導入することで生物活性分子を光らせ,生体内での挙動を可視化する。

しかし,小さな化学構造の生物活性分子に有機蛍光分子を導入すると,化学構造の変化により本来の生物活性を失ってしまうことが大きな問題だった。これは,従来の蛍光分子が化学的に大きな構造を持っていることが原因の一つであり,小さな蛍光分子の開発が待ち望まれていた。

研究グループが開発したTAPは,5員環と5員環が縮環した最小の蛍光発色団だったが,安定性を向上させるためにベンゼン環に連結させた誘導体を蛍光標識基として従来用いてきた。

今回,分子サイズの大きなベンゼン環以外にもTAP構造を安定化させる官能基を検討し,コンパクトな官能基であるケトン基がTAPの安定性を向上させることを見出した。この知見を基に,TAP環とビニル基をケトンで連結したTAP-VK1を合成した。

TAP-VK1は種々の脂肪族チオールと特異的に反応し,アミンやアルコールなどの他の官能基とは全く反応しなかった。また,チオールとの反応により蛍光色が変化し蛍光強度が大幅に増強された。これにより,チオール基を特異的に蛍光標識する最小の蛍光標識基の開発に成功した。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害剤であるカプトプリルは最も小さな構造を有する薬の一つであり,分子内にチオール基を有している。このチオールにTAP-VK1を導入し,その阻害活性を測定した。

既存の蛍光分子では大幅に活性が低下したのに対し,TAP-VK1では強い活性を保持していた。ついで,TAP-VK1で標識したカプトプリルを血管内皮細胞に加えたところ,カプトプリルが血管内皮細胞中のACEに局在する様子が蛍光で観察できた。

一方,既存のコンパクト蛍光標識試薬では同様の局在は観測できなかった。これは,薬理活性を損なうことなくカプトプリルを可視化できた初めての例であり,TAP-VK1 がコンパクトな生物活性分子の挙動解析に有用であることが証明された。

また,TAP-VK1は悪臭の成分であるチオール基のみと特異的に反応し,蛍光色と蛍光強度を大幅に変化させることから,チオールのセンサーとして用いることも可能で,つまり「臭いを見る」ことも可能になるという。

この成果は,薬のみならず毒やホルモンなど様々な生物活性分子の作用機構を知る手がかりを与えることから,様々な生命現象の解明に繋がるとしている。

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