医科歯科大,皮膚ガスの可視化装置を開発

東京医科歯科大学の研究グループは,経皮放出される血中揮発性成分の濃度分布の非侵襲的リアルタイムイメージング装置(sniff-cam)を開発し,発汗が少なく表皮が薄い耳周辺領域,中でも耳道開口部が血液中に含まれる揮発性成分の非観血計測に適した部位であることを発見した(ニュースリリース)。

皮膚ガス放出の理解には,広大な面積を有し,身体の部位により汗腺の密度,表皮層数などが異なる皮膚特性と皮膚ガス放出を関連付けた実験的計測が必要であり,従来法では,一定面積から一定時間中に放出される皮膚ガス総量の分析が必要となるため,詳細な皮膚ガス成分の評価が困難だった。

研究グループは,この研究課題を解決するため,ヒト皮膚から経皮的に放出される血中VOCsの濃度分布を経時的に観察可能な「ガスイメージング装置(探嗅(たんきゅう)カメラ)」を開発した。また,経皮ガスの放出を模倣した新たなガス負荷法,および複雑な曲面を有する体表面における正確なガスイメージングを実現するためのフィッティングデバイス(二次元真弧:マコ)を新規に開発した。

実証実験として汗腺密度や表皮層数の異なる手掌,手指,手背,足裏,耳を対象部位として一定量のアルコール飲料を摂取後の健常被験者より放出される皮膚ガス中のエタノール,そして代謝産物であるアセトアルデヒドの濃度分布をリアルタイムに画像化し,アルコール代謝の非侵襲モニタリングに成功した。

そして,従来の手法では観察することの困難であった「身体部位により異なる汗腺分布および表皮層数」と「皮膚から放出されるVOCs」の関係の考察が可能になった。特に,薄い表皮下に毛細血管が密に分布し,かつ汗腺の少ない耳周辺領域が経皮VOCs計測に適する部位であることを明らかにでき,今後の「皮膚での血液ガス計測」に繋がる大きな成果となった。

探嗅カメラがエタノール(またはアセトアルデヒド)を検出する仕組みには,補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型アルコール脱水素酵素(ADH)の触媒反応を用いたバイオ蛍光法を用いている。高感度なカメラの前方に酸化型NAD(NAD+)で湿潤させたADH固定化メッシュを設置し,エタノールガスを負荷すると酵素反応によって還元型NAD(NADH)が新たに生じる。

このNADHは波長340nmの紫外光照射により波長490nmの蛍光を生じ,蛍光の強度が負荷されたエタノールガス濃度と相関することからADH固定化メッシュ上の蛍光強度分布をカメラで記録することで,エタノールガス濃度分布が得られる。

この研究結果により,新規なウェアラブル型ヘルスケア機器の研究開発を加速することができるとし,また非侵襲・無意識下での代謝状態モニタリングの他,疾患の新規な早期スクリーニング法,さらには「人工の探知アラート犬」の開発が期待されるという。

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