北海道大学の研究グループは,圧電材料を利用した新しい有機合成手法を開発した(ニュースリリース)。
圧電材料は,機械的な圧力やひずみを与えられると,その表面に瞬間的に電気(ピエゾ電気)が発生する。この古くから知られている圧電現象は,身近な日常生活の中で,また医療や自動車から工業分野に至るまで極めて多様な分野にわたって使用されている。
例えば,台所で使われるガスコンロには,圧電材料に圧力をかけることにより電気を発生させ,電気の火花を飛ばして着火させるものがあり,同様にライターにもこのような仕組みを利用したものがある。
このように幅広い応用が知られている圧電材料だが,それらを有機合成反応に応用した例はほとんどなかった。圧電材料を利用することで,機械的な力を駆動力とする新しい化学反応が実現できる。
今回研究グループは,ボールミルという粉砕機を用いた化学反応に圧電材料を共存させることで,ピエゾ電気を利用する新しい有機合成反応を開発した。この反応には,圧電材料としてバリウムチタン酸,ボールミルにはRetsch製「MM400」を使用した。また,より簡単な方法として,圧電材料と有機化合物の混合物をビニール袋に入れ,かなづちで叩くことでも反応が促進されることがわかった。
また研究グループは,アリールジアゾニウム塩という有機化合物が圧電材料から発生するピエゾ電気により活性化され,対応するラジカルが発生することを見出した。これを利用することで機械的な力を駆動力とする新しいカップリング反応やホウ素化反応を開発した。
この反応は廃棄物,コスト,毒性や安全性が懸念される有機溶媒を必要としない上,空気中で簡便に実施することができる。また,この反応は幅広い基質に適用することができ,短時間で効率よく反応が進行する。
従来,化学反応を促進するために熱や光が利用されてきたが,この成果により機械的な力を化学反応に利用できるようになり,まったく未知の化学反応の実現が期待されるという。
また,この反応は有害な有機溶媒を用いずに実施できるため,化学製品,医薬品や機能性材料をより環境負荷を抑えた形で生産できるようになることが期待される。さらに,溶媒の乾燥・脱水によるコストがかからないことから,生産プロセスのコストダウンも期待できるという。今後は,計算科学や機械学習などを用いて性能の向上を目指すとしている。