米オン・セミコンダクタ―は12月5日,横浜市内にて記者会見を開き,インテリジェントセンシンググループ産業ソリューションズ部門バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのHerb Erhardt氏が「産業用イメージングの進化」と題し,同社の産業用イメージセンサーの技術動向と製品戦略について解説した。
同社は自動車用イメージセンサーで世界最大のシェアを持つが,産業用イメージセンサーにも注力しており,アプリケーションとしてはマシンビジョンの他,ITS(高度道路交通システム),映画撮影技術,高性能監視,医用イメージング,科学計測イメージング,宇宙などに展開している。
産業用イメージセンサーの定義を同社は「高速・正確な意思決定を実現」するものとしている。そこで生ずるニーズに応えるため,高い解像度,ノイズの少ないイメージ品質,高速なフレームレート,より小型なシステムサイズと低いコストを実現するべく,技術を高めてきた。
具体的には,高速出力,グローバルシャッター,ピクセル内イメージ補正,プロセスノード縮小(65nm),BSI(裏面照射方式)などを経て,積層アーキテクチャを見据えているほか,センサーの性能も近い将来,読み出しノイズ1エレクトロン以下,フレームレート50Gb/s以上を実現したいとしている。
最新シリーズの製品である「XGS45000」は,解像度45Mピクセル,フレームレート48fps(12bit)を誇る。高解像度が要求されるFPDの検査装置においてコニカミノルタグループの米Radiantの製品で実績があり,競合製品と比べても解像度と時間あたりの読み出しピクセル数で優れているとする。
同時にこの製品は放送用8Kにも対応しており,8Kビデオモードで動作させると,解像度7680×4320の映像を60fps(12bit)で出力できる。これにより,映画やスポーツといった映像コンテンツの製作を支援できるとしている。
次世代製品への動きとして,新たなデータイプを用いた拡張を示した。まずは深度画像および距離画像測定で,同社はLiDAR向けとしてSPAD/SiPMの技術を持つが,こうした距離計測技術とのオフチップでのコラボレーション,または開発中の透明回折格子や位相差検出素子をイメージセンサーに積層する方式を想定している。このうち位相差検出素子は製品化したものもあるが,現状は解像度が下がるためその向上に努めているという。
またハイパーマルチスペクトルイメージングも農業や医療用途に向けて研究開発を進めているという。具体的には二つの方式,プラズモニックフィルターとファブリペローフィルターをイメージンセンサーに積層する開発を行なっている。
これらの色と光強度以外の情報を持つイメージセンサーは,インダストリー4.0にて使われることになると同社は考えており,そのためにはAIによるデータ処理も必須となる。同社の調査によると,コンピュータビジョンの60%以上に既にAIが使われており,製造市場でのAIのCAGRは55%になるという。
こうしたAIによる処理はクラウドで行なわれていたが,現在はエッジ側での処理が進んでいる。そこで同社はさらなる先を見据え,イメージセンサーとロジック回路をそれぞれ積層する研究も行なっているという。
そこでは過去に流れた電流を記憶する抵抗器である,メモリスタによるアナログ回路を採用することで推論の精度が上がり,64~256レベルのアウトプットが可能になるとみている。これにより,エッジ上での機械学習も可能になるとする。
多くのライバルがいるイメージセンサーにおいて,同社は低ノイズと解像度,読み出し速度などの技術や,消費電力や価格のバランスにおいて他社よりも有利だと考えている。今後はこうした取り組みを通じて産業用イメージングを革新し,新たなアプリケーションの門戸を開きたいとしている。